平成22年度JCOMM賞 受賞者概要

JCOMMマネジメント賞
神戸におけるESTモデル事業

             神戸市TDM研究会、神戸市EST協議会、KOBEST2007実行委員会、
                   かしこいクルマの使い方を考えるプロジェクト神戸


 神戸市郊外部におけるMMを中心とした環境行動計画が、国土交通省のESTモデル事業に選定されたことを踏まえ、郊外部の地下鉄沿線の事業所の従業員ならびに居住者を対象としてTFPを実施するとともに、公共交通の利便性向上策を出来る箇所から実施した。マイカー利用から公共交通への転換を図ることで、CO2排出量の削減と公共交通の利用者増を目的とするものである。   職場MMは平成19年度から着手し、平成21年度までに5工業団地で約16,000人を対象としてTFPを実施した。また、最初にTFPを実施した西神工業団地では、エコ通勤を考える企業ミーティングを開催することで、工業団地一斉ノーマイカーデーを実施することになり、直通バスの新設や循環バスの増発等を合わせて行った。また、居住者MMは平成20年度から着手し、2団地で約10,000人を対象にTFPを実施し、併せてシンポジウムの開催やレンタサイクルの実験などを行った。他にも、公共交通を利便性向上策として、駅にバスビジョンを設けて案内し、全市のバスマップを作成し配布・掲示を行った。
 平成19年度の職場MMについて、1年後に検証したところ地下鉄利用者やバス利用者が他の区間に比べて若干の増加(3〜13%)が見られた。また、これまでのTFP結果より、従業員の約5割、住民の約8割が「クルマの利用を少しだけでも控えよう」と意識が変わるとともに、回答者のクルマの利用時間が約1割減少した。これまで実施してきたエコファミリー制度などの効果も含めると、ESTモデル事業でのCO2削減目標1,800tに対し、1,911tの削減効果が見込まれた。
 TFPの実施によって「かしこいクルマの使い方」に対する意識が高まり、マイカー利用から公共交通への利用転換が確認できた。しかし、これらを水平展開するためには、財源や人材の不足が課題となってくる。これらの実績や課題を共通の認識とし、政策目標として掲げ、既存の組織の中で継続的に取り組んでいける仕組みが出来るよう、働きかけていくことが重要である。   今回モデル事業として実施してきたこれらの取り組みが、好例として広く普及されることを望みたい。

 −JCOMM実行委員会から
 大都市において長年MMに取り組まれ、PDCAサイクルの下、都市部から都市部周辺へと総合的かつ横断的に進められ、複合的な効果が得られています。様々主体が存在する中で各種MM推進委員会の構成員に共通メンバーを配することで取組の一貫性を確保するなど、持続可能な体制づくりにも工夫がなされ、また、エコファミリー制度など社会実験だけではなく、まちづくりの視点も絡めた行政施策として結実している点も高く評価できることから、JCOMMマネジメント賞に選定されました。




JCOMMマネジメント賞

松江3M(Matsue - Mobility - Management) - 「ひと」「まち」「地球」の縁結び -

                           松江市公共交通利用促進市民会議、
             国土交通省(松江国道事務所調査設計課・島根運輸支局輸送課)、
        島根県(交通対策課)、松江市(地域・交通政策課,都市計画課・交通局)
                              一畑電車梶E一畑バス



 松江都市圏のMMへの取り組みは、平成15年度に松江市公共交通利用促進市民会議の前身組織が、「自動車利用を抑制し、利便性が高く環境にも優しい公共交通機関へ転換するまちづくり」を提言したことから始まる。
 提言を踏まえ、(1)松江市公共交通体系整備計画(平成18年度)の策定からMMや交通社会実験の実施まで取り組んでいること、(2)計画立案にあたり、関係者(特に市民)との協働に取り組む中で信頼関係を構築し、計画完成時にはこれを着実に実行する組織的な推進力を得ていること、(3)提言当初から都市計画との連動を視野に入れ、交通社会実験等を活用しながらまちづくりを実現するという明確なプログラムを有していることがマネジメント上の特長である。
 一連の取り組みのうち、例えば、市内100社、3,200人の参加を得た「ノーマイカーウィーク」では、ピーク時に9%車が減ることで、CO2排出量や主要交差点の渋滞長合計が半減することを確認した。一畑電車を対象としたMMでは、マイカー通勤者の21%が一畑電車を利用し、その1/3は実際に通勤手段を変更するに至った。また、中心市街地でのトランジットモール実験では、普段は実験区間内を目的地毎にマイカー移動する人のうち38%が徒歩・自転車・バスで移動し、道路空間の再配分が交通行動の変化を促すことを確認するなど、目に見える成果を得ている。
 市民会議が取り組んだ地域MMは、対象地域に「バス利用促進委員会」が組織されるなどの自発的な取り組みを誘発し、またこの様子が報道され、他地域へと派生するなど好循環も生まれている。 平成22年度も既に塩見縄手で一方通行・歩道拡幅実験を行い、今秋には、ノーマイカーウィークや地域MMに加えてパーク&ライドやコミュニティサイクルにも取り組む予定である。
 今後も、MM、交通社会実験を継続、拡充しながら、冒頭に紹介したまちづくりの実現へ取り組むこととしている。

 −JCOMM実行委員会から
 毎年特定期間での社会実験を積み重ね、市民会議を中心とした拡がりをもちながら粘り強く平成15年から続けられている取り組みは、地方都市における素晴らしいマネジメント事例です。官民一体となって計画的かつ戦略的に進められ、交通事業者が率先して実行している点も評価できます。また、ソフト施策だけでなく、ハードとの連携も推進体制の中に組み込まれ、理想的な運営体制がつくられており、国、市、交通事業者、民間等の努力の結果、目に見える効果が現れており、今後の発展も期待できる地方都市の模範となる取り組みであることから、JCOMMマネジメント賞に選定されました。


                                        (以上、二件、50音順表記)


JCOMMプロジェクト賞
当別町地域公共交通活性化再生事業


  当別町地域公共交通活性化協議会、(有)下段モータース、(社)北海道開発技術センター
 

 平成18年度以前、北海道石狩郡当別町には、地域内の路線バスは2路線(青山線・当江線)しか存在せず、地域住民の生活交通は整備されているとは言えなかった。そこで、町内及び隣接する札幌市あいの里地区までを多目的に運行している民間の送迎バス(医療系大学の送迎バス・特定の地域住民バス・患者輸送バス)と自治体で運行するバスを一元管理することで、路線・ダイヤの合理化・効率化を図り、平成18年4月より、当別ふれあいバスの実証運行を開始した。これにより、単独で運行を行っていた時に比べ、民間事業者及び自治体の運行経費を圧縮するとともに、これまでの民間送迎バスでは利用可能な住民が限定(患者や学生等)されていたが、この一元管理により、不特定の住民が利用できる公共交通として運行することが可能となった。
 また、モビリティ・マネジメントとしては、この事業の計画段階より、ニューズレター『とうべつバス通信』を発行し、検討の過程や調査結果について町民への周知を実施するとともにバスに関する取組みやMMに関連する情報を発信している。さらに、住民MM・学校MM・バス利用者感謝ツアー・バス祭り・交通マップ作成・交通すごろく作成・バス車内展示会等のMM施策を継続的・複合的に展開した結果、利用者数は増加傾向にある。
 加えて、環境に配慮したバス交通を目指し、廃食用油から精製するバイオディーゼル燃料によりバス運行を実施するとともに、ふれあいバス車内・町内のスーパー・公共施設等で町民から廃食用油を回収するシステムを構築した。
 今後もコミュニティバスの継続的な運行及び利用者拡大に向けて、様々なMMを実施し、地域に愛されるバスとして、守り、育てていきたいと考えている。


−JCOMM実行委員会から
 過疎地であっても工夫とやる気次第でバスモビリティの改善プロジェクトがここまで成功するということを示した好例であり、この事例を学ぶことで勇気付けられる地域の数ははかりしれません。イベントや関連する様々な工夫も豊かで、楽しく参加できるというMMの本質も体現しています。非常に完成度が高く、同時に更なる発展可能性も期待できる他に模範となるプロジェクトとしてJCOMMプロジェクト賞に選定されました。




JCOMMデザイン賞

仙台市内及び近郊8大学交通情報マップ


                 仙台市、仙台白百合女子大学、東北学院大学、東北工業大学、
        東北生活文化大学、東北大学、宮城学院女子大学、宮城教育大学、宮城大学

 

 「学都」と称される仙台には,人口約103万人の約5%を占める大学生がおり,短大生・専修学校生等を含めると,人口の約7%になる。その学生に公共交通の利用促進を広めることは,現在の公共交通利用者を増やすだけでなく,将来の公共交通利用者の増加にも繋がる。
 そのため,仙台市では,市と大学が連携し交通手段や居住地選択において公共交通利用の意識を高めるため,各大学オリジナルの大学交通情報マップを作成し,新入生の入学手続き資料等に同封しており,各大学が継続的に取り組み始めている。
 大学交通情報マップは,各大学の学生と教職員,行政,NPO等とワークショップを行い,労力と時間をかけて,大学オリジナルのものを作成しており,新入生に公共交通を利用してもらえるように工夫している。下記に各大学の交通情報マップの特徴をまとめる。  
 【デザインの特徴】
 ・ スクールーカラーを基調としていたり,パステルカラーを採用することでさわやかさ,
  女子大らしさをイメージさせている。
 ・ 手書きのイラストでやわらかさを伝え,芸術性を高めている。
 ・ キャラクターを掲載することで,見た人に親近感を持たせている。
 【掲載情報の特徴】
 ・ バスの路線図だけでなく,ランドマークとしての主要施設,コンビニ・スーパー等の
  生活に必要な情報を掲載
 ・ 大学入学により新たに仙台で生活を始める新入生のために,大学生協を通して契約した
  アパート等の物件数を地区毎に掲載
 ・ 車の利用を控えることによるCO2の削減量等の環境に関する情報を掲載
 ・ 単に目的地まで待つだけであったバス車内での移動時間に「楽しみ」を提案するため,
  バス車内でのエクササイズや過ごし方等についての情報を掲載

JCOMM実行委員会から
 応募されたMMツールは、複数の大学の学生教職員をターゲットとしたバスマップであり、それぞれの大学の学生が中心となって、行政やデザイナーが関与するワークショップを通じて大学毎に作成されるとともに、各大学が主体となってそれぞれの大学構成員に配布しています。それぞれのバスマップの機能性・有用性が全体に秀逸であり、また、ワークショップや発表会などを通して利用者の視点を取り入れる工夫を凝らしている点の実務的可能性が高く評価され、JCOMMデザイン賞に選定されました。



JCOMM技術賞
熊本電鉄の利用促進のための一連のMM施策とその有効性の評価
(受賞研究業績=溝上章志,橋本淳也,末成浩嗣:利用実態調査による利用促進を目的とした
        MM施策の有効性評価,土木学会論文集
, 66 (2), pp. 147-159, 2010


                                 溝上章志,橋本淳也,橋内次郎、末成浩嗣

 
 公共交通機関の利用促進を目的としたMMの代表的技術の一つであるTFPの有効性を評価する方法としては,自動車利用の削減量などの行動変更に関する事後アンケート調査へのTFP参加者の回答値に分散分析などを適用し,効果の有無の統計的検定を行うのが一般的であった.しかし,できれば,TFP参加者がどの程度の行動変更を行ったかを実測し,TFPの真の効果を実際の行動データから計測したい.また,実際に行動変更を行っているのは,当初のTFP参加者のうちのどのようなセグメントであるかも明らかにしたい.
 本研究では,熊本電鉄線への転換促進を目的としたオブジェクト指向のTFPを沿線自治体で大規模,かつWave-4まで継続的に行い,以下のようなことを明らかにした.
 1) 実行転換率と長期転換維持率に与える自動車利用抑制要因の程度や転換行動意図の強弱,
  行動プラン票の記入の有無の因子効果は大きいこと,CO2排出量などの改善情報のフィード
  バックは長期的な転換行動を維持するのに効果があることなどが改めて検証された.
 2) TFPに参加したことによって実際に交通手段を自動車から熊電に転換した利用者を「熊本電
  鉄利用実態調査」で補足し,彼らの属性やサービス水準の分布を分析することによって,
  TFP回答値と実際の行動の間に一致性があることを検証した.これによって,TFP被験者の回
  答値の信頼性は担保されることが分かった.
 3) この結果より,回答値を用いた転換行動モデルや実行率モデルを推定し,TFP実施によって
  自動車から公共交通機関に転換しやすい世帯や個人のセグメントを抽出した.世帯としては
  ,自動車保有台数が小さく,買物・習い事に公共交通機関を利用可能な構成員がいる世帯,
  個人としては,現在の自動車による目的地までの経路に対して,最寄り駅までの徒歩時間や
  乗り換え回数が小さい公共交通機関経路がある年齢階層の高い個人ほど,TFPによる転換可
  能性が高いことが明らかになった.

JCOMM実行委員会から−
 本研究で提案されているモビリティマネジメントの効果の評価・検証技術は従前からの課題を解決するものといえます。特に地方都市のLRT事業計画において実施した大規模TFPの有用性をパネル分析と事後実態調査により3年間をかけて検証した内容は、学術・実務の両面での貢献が非常に大きいものと評価されました。こうした研究業績は技術賞に相応しいものであると評価されたことから、JCOMM技術賞に選定されました。