【インタビュー記事 第2弾】日本の1カ月先を行くオーストリアの公共交通政策

Summary

初動が早く迅速な対応がとられたオーストリア。2020年3月16日から始まったロックダウンが5月1日に解除されました。オーストリアや首都ウィーンの生活や交通政策について、欧州と日本の交通政策に詳しい、オーストリア・ウィーン工科大学交通研究所 交通工学・交通計画研究部門の研究員の柴山多佳児氏に聞きました(2020年5月12日インタビュー)。
※より詳しい対談の様子をご覧になりたい方は動画も併せてご覧ください。

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インタビュー動画


Article

Q. オーストリアは「ロックダウンをした」と聞きました。ウィーンの生活は、どのように変化しましたか?

A. オーストリアのはじめの新型コロナウィルスの感染が確認されたのは2020年2月26日です。オーストリアは、西側はリヒテンシュタインとスイスと、南側はイタリアとスロベニア、東はハンガリーとスロバキア、北はドイツとチェコと接しています。オーストリアでは、欧州でも新型コロナウィルスの感染拡大が特に早くに始まったイタリアと隣接している、チロル州から新型コロナウィルスの感染拡大がはじまりました。ちょうど欧州のスキー休暇の時期と重なったため、オーストリアのアルプスのスキーリゾートで楽しんだ他国の観光客が、各国に持ち帰り集団感染が分かったケースもあります。特に感染が多かった自治体では、検査を実施すると3000人中19%が感染していたという状況でした。

出典:Googleマップ

図 オーストリアにおける感染者数の推移
出典:オーストリアの厚生省(社会、健康、介護、消費者保護省)ダッシュボード
https://info.gesundheitsministerium.at/dashboard.html?l=en


チロル州以外でも感染が広がり、2020年3月9日、10日頃に「まずい」となり、オーストリア政府はかなり迅速に判断を下し、3月16日にロックダウンしました。初期対応が遅れたと思われる他国よりも非常にスピーディな対応だったと評価しています。3月25日頃にピークを迎え、5月1日に外出制限は解除されました。

オーストリアは”ロックダウン(都市封鎖)をした”という言い方をしています。しかし、ロックダウンの方法も国によって様々です。オーストリアのロックダウンはドイツと同様に緩いものだったと思います。

オーストリアがロックダウンした3月16日以降は、基本的には在宅ワークで、食料品店とドラッグストア以外の商店、レストラン、ホテルなど店舗は閉店することになりました(3月11日頃に事前アナウンスあり)。外出を認める3つの理由以外は、基本的には家にいて欲しいと要請されました。しかし、外出の許可証は不要。オーストリアは上から監視をするような社会ではないため、監視するアプリなどの強制は、議論こそありましたが、実際に強制されることはありませんでした。

外出が認められていた3つの理由は
1.    延期できない仕事に従事している場合
(医療従事者,食料品関係などのエッセンシャルワーカー)
2.    日用品の買い物に行く場合
(スーパーやドラッグストアなど)
3.他人を手助けする場合
(例えば、柴山氏は遠隔授業に必要なパソコンの設定ができない大学教員を助けに行った)
 
その他にも、健康を維持するために、単独もしくは、同居人とであれば、他人とは1m以上距離を置きながら外出できました。多くの人は散歩にできたり、自転車でのサイクリングに出かけたりして過ごしていました。

2020年4月6日からスーパーやドラッグストアに入るときはマスクが義務になり、マスク不着用の場合は25ユーロ(約3000円)の罰金をとられます。オーストリアをはじめ欧州では、日本やアジアと異なり、マスクをする文化が全くありませんでした。マスクの入手は困難で、政府が率先して調達し、さらに国内にも急いで不織布のマスクの生産ラインを整えられ、マスクはスーパーの入り口で配布されました。

施設面積の大きさに応じても、開店に制限がかかりました。2020年4月13日までのイースター休暇明けから、400平方メートル以下の店とホームセンターは開店できるようになりました。店内の客数にも制限があり、2020年4月末までは、20平方メートルあたり1人でしたが、今は10平方メートルあたり1人になりました(公共交通機関は除外)。5月15日から、レストランも1テーブル4人までなどの条件付きで開店が許されるようになりました。

またオーストリア全土で、客と店員のやり取りを減らすため、キャッシュレス決済が呼びかけられました。暗証番号なし・コンタクトレスでの決済(タッチ決済)の上限は通常25ユーロですが、上限が一時的に50ユーロに引き上げられました。オーストリアはもともと、銀行口座から直接引き落とられるデビットカードが普及していて、よく機能していました現金で支払う人もいるため、完全には廃止せず、チャネルとして残してはいます。

ウィーンに住んでいて感じることは、オーストリアの新型コロナウィルス対策は、ドイツとかなり似ていますが、時間的に1~2週間先をいっているのではないかと感じています。

 

Q. 新型コロナウィルスの感染拡大が始まってからのウィーンの交通政策を教えてください

A. オーストリアは2020年3月16日に全土でロックダウンしました。はじめの段階では特に交通政策として特別な施策は講じられていませんでした。

ロックダウンしましたが、出勤している人が一定数いるため、そのような方の移動を確保する必要があり、少し減便しながらも、公共交通は走り続けていました。

減便の仕方ですが、行政と事業者が連携して設定しながら、ピークの時間帯に便数を増やしていた分を減らしたり、夏休み期間中のダイヤや休日ダイヤを採用して減便していました。観光客や長距離の出張者が減少したため、長距離列車は1時間間隔は2時間間隔、といったように運行頻度を減らしました。

※写真;前扉からの乗降禁止、1列目の使用不可

また、新型コロナウィルスの交通政策として、まず重視されたことは、バスドライバーの感染防止対策です。公共交通の乗務員が集団感染すると、公共交通を走らせられなくなるからです。電車や路面電車は物理的に仕切りがありあまり問題になりませんが、客席と運転席に物理的に仕切りが無いバスに重点が置かれました。前扉からの乗降を禁止し、1列目の座席をテープで仕切り、最前列には乗客が座れないようにしました。切符の購入は、以前から車外の券売機やスマホアプリで購入したり、ウィーン在住者は1年間の定期券(年間365 ユーロ)を持っているため、市内のバスで切符を乗務員から直接購入することありません。信用乗車を採用していますので、どのドアからも乗り降り自由です。

マスクの着用ですが、スーパーでマスクの配布が始まったころから、公共交通機関での乗客のマスクの着用が義務化になりました。不着用の場合は、スーパーなどと同様に25ユーロ(約3,000円)の罰金となります。マスクの着用義務化は現在も継続されており、電光掲示板でアナウンスしています。

また、公共交通機関で乗客の間隔を1メートル空ける、ソーシャルティスタンスを保つことは推奨されています。しかし、混雑することもあるため、努力義務であって罰則はありません。

※写真:シェアードスペースの臨時標識

ウィーンは人口密度が比較的高い都市です。そのため、歩道が狭い道路に、「シェアードスペース」を臨時に導入しました。健康維持のために、外出する住民のソーシャルディスタンスを保つためです。シェアードスペースを臨時に導入された道路は、導入前は車道と歩道のある道路で、歩行者は堂々と車道を歩ける道路ではありません。シェアードスペースや臨時の歩行者天国を導入することにより、クルマと歩行者はお互い道路を譲り合いながら道路を使ことが可能になりました(自動車の速度は20km/hに規制)。シェアードスペースには、臨時でシェアードスペースを示す標識が立ちました。これらを臨時にするための法規制がなかったため、急いで調整しルール化され、4月10日から8月までの時限措置となりました。もしかすると、このまま継続される可能性もあります。

 

Q. ロックダウン解除後の交通政策の取り組み

A. オーストリアの公共交通は,公共セクターがどこにどれくらい列車やバスを走らせるか計画し、公営や民間の運営会社に運行を「委託」しています。国と自治体などの公共セクターが、列車やバスの本数、補助金ルールなどの委託の要件(サービス水準)を決めています。ウィーンの公共交通の収入は3割が補助金で、地方に行くと8割が補助金といったところも多いです。

またオーストリアでは、住民の多くは公共交通の定期券を1年単位で購入します。その定期券を持っていれば、一定のエリア内の鉄道、バス、路面電車が乗り放題となります。ウィーンの定期券の価格は365ユーロ(約42,000円)で、約190万人のウィーン在住者中約82万人が持っています(大学生は別の定期があるので数字に含まない)。市民は、これさえ持っていればいつでも電車やバスに乗れる、クルマの免許証のような感覚で定期券を保持しているのではないでしょうか。このような年単位で定期券を購入してもらう仕組みも安定した公共交通サービスづくりに役立っていると感じています。

そのため、新型コロナウィルスによるロックダウンで、日本のように民間の会社が経営危機に直面しているような状況はなく、運賃収入が急激に減少しても影響があまりありません。

一部の長距離鉄道路線は日本と同様に、乗客の運賃収入のみで運行している路線があります。例えば、ウィーンとザルツブルクを結ぶ鉄道路線は、民間の鉄道会社2社が同じ線路の上で運行しています。オーストリアでは、公共交通は社会インフラだとう認識があります。そのため、国は4月20日頃から10週間程度、4830万ユーロ(約56億円)を拠出して、この鉄道会社2社と緊急時の随意契約を結び、本数は減らしつつも1時間に2本は列車が確実に走るよう、支援をしています。

ウィーン市内では路上駐車の駐車料金は、ロックダウン中は免除となりました。その他の移動手段に関しては、特段何かの措置が講じられてはいないと感じています。カーシェアリングや自転車シェアリングの利用者は正確な数字を把握していませんが、自転車シェアリングの利用者は減っておらず、電動キックボードシェアリングの利用者は減少したのではないでしょうか。タクシーは観光客の利用が多く、ウィーン在住者はほとんど使いません。

ウィーン市内の公共交通のダイヤは2020年5月1日から通常ダイヤに戻ってきています。

 

Q. ロックダウンによる人々の意識の変化は?

A. 手洗いが奨励され、衛生意識が上がりました。以前は手を洗わずに素手でパンを食べても気していませんでしたし、日本のようにおしぼりは出てきません。今後は、レストランで消毒液が置かれるのかもしれません。

ウィーンでは、地域をより良くしようと考える住民が多く、ロックダウン後も、ウィーン以外のモノを購入するのではなく、できるだけウィーンの地元のモノを購入しようとする動きがありました。例えば、地元のお店でオンラインショッピングが可能な店のまとめサイトが立ち上がりました。

ウィーン工科大で新型コロナウィルスの影響による行動変容についてのアンケート調査を実施しました。約20の言語で実施し、11,000人から回答を得ることができました。(オーストリアからの回答者は、6割がウィーン在住者)。この調査によると、ウィーンでは、ロックダウン以前に公共交通を利用者していた人の大半が在宅ワークにシフトしました。日本の方が、そのシフトは緩やかでした。

ロックダウン解除後に驚いたことは、スポーツ用品店に行列ができていたことです(2020年5月1日)。何を買い求めているのか観察してみると、どうやら自転車を購入する行列でした。新型コロナウィルスの感染を防止や健康維持のために、自転車に乗ろうと思い立った人が多いようです。ウィーン市内には、自転車の通過台数カウンターが埋め込まれて、それによると多いところで、昨年比60%増加したところも確認されたそうです。先ほど紹介した、シェアードスペースでも自転車が走りやすくなりました。また急遽、片側2車線の車道のうち1車線削った自転車専用道「ポップアップバイクレーン」ができました。まだポップアップバイクレーンは数か所で、今後増えるのではないかと予測しています。ドイツでも同様にポップアップバイクレーンを作っていて、道幅の広いベルリンは作りやすそうです。

 

Q. 公共交通離れは今後の課題になりそうですか?

A. 2020年5月1日にロックダウンは解除されました。しかし、まだ在宅ワークは推奨されていて、半年かけて在宅ワークを解いていくのではないかと予測しています。在宅ワークが解けたとしても、在宅ワークでも仕事ができると感じた人も多く、週3日などは在宅ワークを継続、といった可能性もあります。したがって、新型コロナウィルス前の通勤の状況に完全には戻らないと感じています。

学校は、小中高は対面授業に戻るでしょう。また大学の授業は、7月まではオンライン授業となりました。ただ、遠隔では厳しい授業などもたくさんあります。バランスをとりながら落とし所を今後探っていくのではないでしょうか。

地域内の交通の総量はやや減るでしょう。しかし多くても1割減程度の減少だと考えており、壊滅的に減るわけではないと考えています。大切なことは、社会的に不便、不利益があるクルマに利用者をシフトさせないことです。クルマに乗るのではなく、なるべく歩いたり、自転車に乗るように促していくことが必要だと思われます。

長距離交通はまだ先が見えません。オーストリアは、観光が国の「最大の稼ぎ頭」ではないですが、GDPの1割を占めています。8か国と国境を接していますが、国境を封鎖したままです。どのように国境を開けているのかも調整していく必要があります。オーストリア人は、夏の長期休暇をイタリアやクロアチアといった国とります。これまで他国で長期休暇を過ごしていた人は、今年は国内で過ごすことになるでしょう。他国で長期休暇を過ごす人や、オーストリアに来る人に対しては、ウィーン空港で自費でPCR検査(190ユーロ)を受けられる体制を整えています。

 

Q. 交通の専門家として、欧州と日本の交通政策を比較しながら、感じていることをお話ください。

A. 2点あります。

1点目は、会計の考え方や、公共セクターの補助予算の立て方が異なります。オーストリアは、たとえば同じ民間会社が複数の事業をやっていても、補助金ありの路線バスと、補助金なしの高速バスや貸切バスなど、事業ごとに会計がはっきりと分け透明性を担保する必要があります。日本では赤字の路線バスの損失を、高速バス事業や貸切バス事業から上がった利益で補填する内部補助の考え方が一般的ですが、これだと後者がなくなったら事業はすぐ不安定になります。さらに、日本では公共セクターからの補助金は、赤字部分を補助する欠損補助の考え方を取っていますが、オーストリアは、サービス水準と補助額は事前に決め、行政と事業者が契約をする仕組みです。さらにオーストリアでは、日本であれば教育予算でのスクールバスとして公共交通とは別枠の運行となるものを、公共交通の補助金に組み入れてしまい、誰でも乗れる公共交通サービスと統合して運行するなど、補助金のすべてが交通予算というわけではありませんので、交通に関する補助金はは各種縦割り予算を組み合わせていてで複雑です。しかし、これが結果的にロックダウン下でも、今後経済活動を再開していく下でも、公共交通を安定的に走らせらえる鍵になっていると感じます。

オーストリアでは、公共交通は社会インフラだという共通の認識があります。新型コロナウィルスの影響などの要因で、路線が完全に廃止になるような仕組みになっていない、とも言えます。

日本では、デジタル技術を活用するMaaSの議論に関心が高まっていると聞きました。しかし、今一度立ち止まって、公共交通とは何か、どこが社会的にあった方がいい路線なのか、公共セクター、民間それぞれの役割、民間同士の連携の仕方など、再確認と再構築をする時期にあると強く感じています。オーストリアも同様に再構築した時期があり、1999年公共交通法という法律に集約されています。この1999年公共交通法とそれまでの積み重ねがあったからこそ、その仕組みを土台にデジタル化もうまく進めることができています。

2点目は、インテグラル・タクトダイヤの有用性です。インテグラル・タクトダイヤとは、公共交通の各路線の運行ダイヤの間隔を均等にし、乗換駅では各方面から同時に1か所に集めて、すべての組み合わせの乗換を円滑化させる手法です。これが役立って、ロックダウン下で列車やバスの本数を減らしたとしても、乗換が円滑であるため、間引かれた結果何時間も乗り換えられる列車がない、といった利便性の低下を防ぐ効果があります。オーストリアでは、2025年までを目標に、全国の鉄道・バス網にインテグラル・タクトダイヤの導入を完了させようと進めている矢先でした。このインテグラル・タクトダイヤのおかげで、 ロックダウン下でも、公共交通の間引き運転がしやすかったのではないかと思います。このオーストリアでの知見を踏まえると、日本も全国でインテグラル・タクトダイヤの導入を積極的に進めると良いのではないでしょうか。

オーストリアから見て新型コロナウィスル対策をしっかり行っているなと感じる国は、チェコ、ノルウェー、デンマーク、ベルギーといった人口1,000万人規模の小国です。ベルギーの首都ブリュッセルでは、都心をほぼすべてシェアードスペースにし、自動車の最高速度を時速20キロメートルに規制していると聞いています。

本日はどうもありがとうございました。

【2020年5月12日 Zoomインタビューより】

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