【インタビュー記事 第3弾】新型コロナの感染者・死者数の多かったイタリア・ミラノ~これからの暮らしと交通政策について聞く~

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新型コロナウィルで、被害が大きい国(死亡者数字)は、アメリカ、イギリス、イタリア、フランス、スペインと続きます(2020年5月21日時点)。

 

そこで、新型コロナウィスルの被害の大きかったミラノの生活と交通政策について、ヴァンソン藤井由実さんに聞きました(インタビューは2020年5月21日に実施)。

 

ヴァンソン藤井氏は、1980年代よりフランス・パリを中心に欧州各地に居住しビジネスコンサルタントとして活躍し、現在はイタリア・ミラノ在住。『トラムとにぎわいの地方都市・ストラスブールのまちづくり』(2012年出版、土木学会出版文化賞受賞)、『フランスではなぜ子育て世代が地方に移住するのか』(2019年出版)などの著書があり、日本でも講演や執筆活動で活躍されています。

 

出典:Googleマップ


Q どのような生活の変化がありましたか?

イタリアの人口は約6000万人で、うち6分の1の約1000万人がロンバルディア州で、GDPの5分の1が集中する経済圏です。新型コロナウィルスの死者数が約31,500人、その2分の1の約15,000人がロンバルディア州でした(2020年5月21日の時点)。ロンバルディアの州都がイタリア第二の都市ミラノ(人口約130万人)です。ミラノ市内とミラノ周辺の中小都市での新型コロナウイルスの感染者数が多いですが、南部のローマやナポリでは感染者は北部のロンバルディア州よりも少ない状況です。

 

イタリアでも段階的にロックダウンが解除されています。2020年5月4日から、ライフライン関係などの仕事に携わる約500万人が職場に向かうようになり、リモートワークが可能な人(全就労者の約3分の1)は自宅勤務を続けています。

 

2020年5月18日以降は、イタリアでは、自分の住んでいる州内での移動が自由にできるようになりました。フランスでは自宅から100キロメートル以内の移動が自由となりました。

 

しかし、新型コロナウィルスの死者数が約31,500人にもなったイタリアでは、人々の生活は一変し、衛生管理に対する意識も大きく変わりました。

 

感染者数・死者数も多かったため、厳しいロックダウンだった

Q ロックダウンは各国で異なりますが、イタリアでのロックダウン(都市封鎖)はどのようなものでしたか?

感染者数や死者数が多かったため、日本よりも厳しいロックダウンで、外出が規制されました。仕事で出社する際や生活必需品の買い物をする際には、外出先や目的を書いた「自己宣誓書」が必要でした。フォーマットは市のHPからダウンロードする方法でしたので、入手は簡単でした。この自己宣誓書を持たず外出して、もし警官のコントロールに出会うと、135ユーロの罰金を徴収されました。

 

外出が厳しく制限されましたが、この自己宣誓書を携帯していれば、何度でも外出できましたし、時間の制限もありませんでした。しかし、死者が約3万人に上りましたので、自主的に外出を控えた人が多かったように思います。実際、街中にはほとんど人が出歩いていませんでした。また国民が非常に厳しいロックダウンの規則を守ったのは、失業状態になった就労者たちへの生活補助金給付など、政府が早々を経済支援策を発表したことが背景にあります。

 

2020年2月26日から学校が封鎖になり、そのまま2020年9月まで休みになりました。もともと5月下旬から3か月間の長い夏休み休暇が毎年あるため、敢えて5月開校で感染再発のリスクを取らなかったようです。

 

経済活動は2020年5月4日から段階的に再開しており、5月18日から店舗の営業も再開となりました。6月3日からは、EU加盟国に対して国境も開放されます。感染者数や死者数がまだ多い段階で国境の開放したのは、アスパラガス摘みなどの野菜、果物収穫に東欧からの季節労働者が必要であること、イタリアではGDPの13%は観光であることなど、経済的な理由からです。国境開放については、EU加盟諸国間で議論が続いていますが、まだ国境開放の日程や条件を整合化する案は具体化していません。ヴェニスなどの観光地では、観光客が戻るまで、店舗を閉店しているところもあります。

 

店舗内はソーシャルディスタンス1メートル、手の消毒そして、ゴム手袋とマスクを着用

店舗も営業を再開してきており、その営業再開の条件が、ソーシャルディスタンス1メートル以上を保つことであるため、レストランはレイアウトの工夫に時間をかけています。さらに、店員のみならず、入店者もマスクに加えて手袋の着用が義務化されています。入店者は、店舗の入り口で、アルコール消毒ジェルを塗り、ゴム手袋とマスクを着用して入店します。対面で話す必要があるカウンター接客業やサービス業では、顧客の検温があり、又飛沫感染を防ぐ透明プラスティックのシートや仕切り板が入り、現金などをやり取りをする部分だけ空いています。さらに、衣料品店で試着をする際は、試着後に服を消毒する必要もあります。

 

死者数や感染者数が多かったため、ミラノ市民の多くはゴム手袋とマスクそして、アルコール消毒液を持ち歩いていますが、持っていない人は、店舗の入り口に置いてあるものを使います。フランスとイタリアの違いは、フランスの国民は国を頼ろうとするので、国がマスクの着用を義務化するなら国が配布すべきだという声もあります。しかし、イタリアではフランスのように国が義務化する物に対して、その配布を国に要望したりしません。このように各国によって、国と国民との関係で、問題となる点が異なるようです。

 

もうすぐ6月ですので、海のビーチ開きがそろそろ始まります。イタリア人はビーチで過ごすことを好みます。そのビーチで、ソーシャルディスタンスを1メートル空けて、さらに飛沫感染防止仕切り板を入れる議論が出ました。さすがに「ビーチに、飛沫感染防止の仕切り板まで入れることはないだろう」と国民から反対があり、ソーシャルディスタンス1メートルのみを設けることになりました。

 

Q ミラノの公共交通はどのような運行体系になっていますか?

ミラノは、ミラノ市が直接運営する公営企業「ミラノ交通局(ATM)」が、地下鉄、トラム、トローリーバス、旧式トラム、BRT、路線バス、カーシェアリング、自転車シェアリングを一元的に運営しています(従業員は約9,800人)。市民の多くは1ヶ月あるいは1年間の定期券を保有しており、1年間の定期券は330ユーロ(日本円で約39,000円)で非常に安く、ミラノ交通局が一元運営しているモビリティサービスがすべて乗り放題です。

 

ミラノでは、バスの車内では切符が買えません。改札のない信用乗車を導入しているため、観光客は乗車前に券売機またはタバコ屋などで切符を購入します。フランスはバス車内で切符が買えますが割高になっています。信用乗車を導入することにより、バスのドライバーは乗客から運賃収受をする必要がなく、運転に集中することができます。

 

Q ロックダウン中の公共交通の利用者数の推移は?

イタリアの公共交通は、ロックダウン中も本数を半数程度に減らしながらですが、運行を続けていました。エッセンシャルワーカーのための移動手段を確保するためです。イタリア・ミラノの公共交通の利用者数の減少は他国に比べて大きく、学校が休校になったり、お店が開店できなくなったり、外出が厳しく制限された時に急激に落ち込みました(図1)。

図1:世界主要都市の公共交通利用者数の推移
出典)“Quartz”24 April 2020 by Alison Griswold


市は住民の意識付けにお金をかける

Q 新型コロナウィスルの感染拡大により、イタリアでは公共交通に対してどのような政策が講じられましたか? 通勤に自家用車を使うようにするなど、日本ではできるだけ公共交通の利用を控えるような啓発が行われています。

イタリアのミラノ交通局の取り組みをご紹介します。ミラノでは、新型コロナウィルスの感染リスクが高いため公共交通の利用を避けるようなアナウンスを行っていません。その逆で、”公共交通は安全だ“というPRを行ったり、安全に利用するための1メートルのソーシャルディスタンスの取り方など、住民の意識付けに力を入れています。これは、モビリティマネジメントにつながる取り組みではないかと感じています。

 

地下鉄は、自動改札のバーを倒しながら入場します。新型コロナウィルスの感染拡大前は、自動改札では、人との間隔がありませんでした。そこで床に、デザインも意識したフットプリントをつけて、ソーシャルディスタンスを保つように工夫されました(写真1)。地下鉄の車内も同様に、ソーシャルディスタンスを保つためのフットプリントが貼られています。車内の座席もソーシャルディスタンスを保つための、4人座席の中央の2つの座席に使用禁止マークを貼っています(写真2)。またトラムでも、地下鉄と同様に車内のフットプリントと座席の使用禁止マークがつきました(写真3)。

 

写真1:地下鉄の自動改札前のフットプリント
出典)ヴァンソン藤井由実氏

写真2:地下鉄の車内のフットプリントと座席の使用禁止マーク

出典)ヴァンソン藤井由実氏

写真3:トラムの車内のフットプリントと座席の使用禁止マーク
出典)ヴァンソン藤井由実氏


バスの車内の座席は、対面になる場合は、片方を使用禁止しています。バス運転手の感染を防ぐため、バス運転手と乗客席の間に鎖をつけて、行き来ができないようにしています(写真4)。

 

マスクの着用、車内やプラットフォームでもソーシャルディスタンスを保つことを、ピクトグラムを使って説明するパネルをバス車両の外装に張り付け、住民にプロモーションをしています(写真5)。このように、ミラノ交通局は、公共交通を安全に利用してもらうために、住民の意識付けにお金をかけていると感じます。

 

写真4:バスの車内の座席の使用禁止マーク、
ドライバーと乗客席の間の鎖

出典)ヴァンソン藤井由実氏

写真5: バスの車両の外装に、ピクトグラムを用いてマスクの着用とソーシャルディスタンスを保つ規則を説明するパネルを張っている。
ヴァンソン藤井由実氏


Q 自転車シェアリング、カーシェア、タクシーなどは?

自転車や電動キックボードなどシェアリングサービスは、市がゴム手袋やアルコール消毒ジェルを一台毎に設置ができないので、市民が持参しているアルコールジェルを使って消毒したり、手袋をしたりして対応しています。タクシーにはドライバーと乗客と乗客を間仕切る仕切りがあります。

 

フランスでのアンケートによると、カーシェアに対する印象はポジティブです。ただし、ネット上で乗合者を見つけるカープーリングでは、「運転席の隣には誰も座らない、後部席には1名だけ乗車する」といった規制が設けられました。

 

徒歩か自転車での通勤を促す

Q 公共交通でソーシャルディスタンスを保つと利用できる人数が減少します。ミラノ市はどのように対応されていますか?

新型コロナウィルスの感染拡大前のミラノ市の公共交通は1日あたり200万トリップありました。しかし、ソーシャルディスタンス対策によって、公共交通のトリップは4分の1に下がると予想されています。

 

ミラノ市民の平均通勤距離は4キロメートルで、自転車で15分程度です。そこで市は、リモートワークを続けられる人には在宅勤務を、ミラノ市内在住者には徒歩か自転車で通勤するように要請しました。そのかわりに、市は自転車購入費用の60%を補助(上限500 ユーロ)します。電動キックボートも3,500台を追加しました(すでに2,250台導入されています)。冬の大気汚染が深刻な問題だったミラノ市は、公共交通利用者だった人が、自動車へ転換してしまうことを非常に懸念しており、自動車以外の移動手段を使ってもらおうとあの手この手を考えている印象です。

 

市長肝入り「Milano 2020」自転車道とゾーン30を増やす

さらには、新型コロナウィルスが発生してから、ミラノ市は市長が自らリーダーシップをとって、徒歩や自転車で暮らせる賑わいのあるまちづくり案を含む、コロナからの都市復興プラン「Milano(ミラノ)2020」を打ち出しています。 その中の「Strade Aperte(オープンストリート)」計画では、自転車専用道や時速30キロメートル制限のゾーン30を増やしています。

 

図2の薄い赤線は既存の自転車専用レーン、赤い太い線はこれから整備する自転車専用レーン(35kmを拡充)、薄い緑の網目は既存のゾーン30、濃い緑はこれからゾーン30を増やす拠点。黒い四角の点は、「Piazze Aperte(オープンスペース計画)」が進められている場所で、従来の車道を歩行者専用空間に転用します。赤丸の中に赤い四角の点が付いたスポットは、新型コロナウィスル発生前から広場構想があった場所です。

 

自転車専用レーンの整備は4月26日に発表され、急ピッチで進められており、5月21日現在、ヴェネチア通りはもうすでに完成しています。白線を引くだけですので、スピーディに対応ができるわけです。道路空間の管轄と交通行政が地方自治体に一元化されているために、車道から自転車専用レーンへの転用のような道路空間の再配分も実行しやすいわけです(写真6)。

 

図2:「Milano 2020」

出典)Comune di Milano


写真6:歩道を拡幅し、自転車専用レーンを新設したヴェネチア通り
出典)ヴァンソン藤井由実氏

図3:広場空間を新たに確保し、オープンスペース化

出典)Comune di Milano


図3の黄色のスペースはもともと道路だった場所です。レストランなどの店舗は、1メートルのソーシャルディスタンスを守ると営業面積が少なくなり、売上が大きく下がってしまいます。そこで店舗への支援策として、車道空間や広場に飲食スペースの設置を許可する方針です。ミラノの美術館や劇場は9月まで閉館なので、夏の間美術館や劇場の前の大きな広場を利用できます。もともとミラノ市はコロナ禍以前から、道路空間を開放する計画を立てていました。ミラノのような大都市の中でも”歩いて15分以内で暮らせる生活”(住居の近辺に花屋があり、靴屋があり、スーパーや薬局があり、生活に必要な用が足せる)を取り戻す取組みを進めていました。新型コロナウィスルをきっかけに、道路空間の転用について市民との合意形成がとりやすくなったわけです。

 

新型コロナ問題を機会に、都市・交通・道路のあり方を考える

また、市は新型コロナウィルスが終息した時に、生活や都市をただ発症前の「元の形に戻す」発想ではなく、都市・交通・道路のあり方を考える良い機会にしようと考えています。市長自らが、市のHPで「今ここで、我々はどのような都市生活を求めているのか」を問い直す必要があると述べています。ミラノは、新型コロナウィスルが発生する前から、大気汚染都市が深刻であり、混雑税(コードンプライシング)を導入しています。サイクリングに出かける際には、大気汚染から身を守るためのマスクを着用するほどでした。その汚名を返上したいという狙いもあるようです。好感を持てた点は、市が一方的に進めるのではなく、市のホームページに市民が意見を書き込めるように工夫するなど、市民とのコミュニケーションをとる時間を1か月設けていたことです。

 

Q フランスとイタリアの交通の専門家として日本へのメッセージをお願いします

4点あります。

 

1つ目は、公共交通に対してもっと公金を入れるべきだと思います。フランスやイタリアでは、公共交通は公益サービスの一環で経済活動を支える基盤であり、環境保全に資するものだという認識がしっかりしています。新型コロナウィスル問題で、日本の公共交通の経営は破綻寸前だと聞きました。日本も高齢化が進んでいるため、新型コロナウィスル問題を機会に、自動車だけに依存しないまちづくりにシフトすべきです。公共交通を3密の形で利用することはコロナ感染のリスクを高めるかもしれませんが、車に依存した生活もまた多くの健康被害や環境への影響をもたらします。大切なことはモビリティ手段を選択できる社会を準備してゆくことです。そのためには、国や自治体が公共交通のあり方を見直し、世論形成をする必要があります。

 

国や自治体が自動車だけに依存しないまちづくりを推進させて、公共交通に対して公金を使うようになれば、非常に高い日本の運賃は安くなり、運賃が安くなることで利用者が増え、企業活動が活発化するサイクルができます。したがって、運賃体系を見直す必要があると感じています。欧州の公共交通の利用者アンケートによると、移動のスピードよりも環境保全や車内空間に対するニーズが高まっています。

 

2つ目は、日本ではばらばらになってしまっている移動手段、交通計画、都市計画、道路計画を一体的に計画すべきだという点です。モビリティと都市空間の再編成を同時に行う都市計画が必要です。

 

3つ目は、働き方の見直しです。日本の男女の労働時間は欧州と比較すると長く、日本人は、朝早く出勤し夜遅くに帰宅するライフスタイルが一般的です。そのため、生活している自分の自治体の政策や住環境に興味を持ったり考えたりする時間が短くなってしまっています。新型コロナウイルス対策で、在宅勤務が推奨されIT化が進めば、自分や家族との時間ができ住環境や地域のコミュニティへ目を向けられるようになると良いと思います。

 

4つ目は、交通計画、都市計画、道路計画において、30~40代の若手の男女にもっと活躍の場を与えるべきです。欧州では、年功序列ではないこともあり、第一線では若い人が活躍し、都市計画をリードしています。

 

30~40代の若手は、子育て中であるため、子どもにとってどこが危ないか(子供にとって安全な街は、高齢者や身障者にとっても安全です)、滞留空間はどこか、など街づくりに対しても細やかな気配りができますし、また住環境改善実現のスピードも速いです。

 

年功序列の日本では難しいかもしれませんが、組織内で様々な人材を抜擢したり、大学やコンサルなどに所属する若手専門家の人材プラットフォームを構築し、5年間程度地方自治体などで採用する仕組みを作る事で、人材の流動性を高めていってはどうでしょうか。年配者はアドバイザーの役割を担うと良いと思います。

 

 

今回のインタビューが、日本の公共交通政策の一助になればと思います。応援しています。

 

お問い合わせ先(お問合せの際は、問合せフォームもしくはメールからお願いいたします)

一般社団法人日本モビリティ・マネジメント会議 事務局
〒615-8540 京都市西京区京都大学桂

(京都大学都市社会工学専攻藤井研究室内)

e-mail:info# jcomm.or.jp 

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