【インタビュー記事第4弾】新型コロナ禍を都市や交通を見直すチャンスに変えたドイツの取組み

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欧州の中で新型コロナウィルス対策に関して、優等生だと言われているドイツ。そのドイツの暮らしやコロナ禍の交通政策などについて、日本在住経験があり、現在ハンブルグ州の自転車政策でプロジェクトコーディネータを務めているエルファディンク・ズザンネ氏(ドイツ・ハンブルク州在住)に2020年6月24日に聞いた。

ドイツの人口は約8,315万人(2019年9月,独連邦統計庁)、面積は35.7万平方キロメートル(日本の約94%)。ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、フランス、オーストリア、スイス、チェコ、ポーランド、デンマークの9か国と国境を接する。

ハンブルク州はドイツの北に位置し、ドイツ最大の港を持つ貿易の最重要拠点。人口は183万人、面積は755km2。
 

出典:Googleマップ


▼早稲田大学で交通計画学の博士を取得。環境や交通の調査研究を支援

Q. エルファディンク さんは非常に日本語が堪能ですが、日本在住されていた期間には、どのような活動をされていたのですか。また現在のドイツでのご活動を教えてください。

A. 日本ではまず、茨城県守谷市の国際交流員として役所で働いた経験があります。2000年から8年間に渡り横浜に住み、ドイツ語を教えてたり、交通や環境などの調査・研究を支援しました。

また、ドイツの大学では地理学を学びました。日本では、早稲田大学で都市・交通計画を学び、ドイツのシェアドスペースなどに関する論文を書き博士を取得しました。

ドイツに帰国してからは、フリーランスとして日本からの交通、自転車、歩行者、都市発展に関する調査団の支援を行ってきました。

2年前からハンブルク州の都市圏の高速自転車道(Cycle Super Highway)ネットワークのプロジェクトコーディネーターをしています。都市部の自転車道の整備ではなく、ハンブルクの中心市街地に向かう7本の自転車道、そしてリューベックなどの都市間を結ぶ自転車道の2本の合計9本の自転車道を計画しており、現在はフィージビリティ調査(実現可能性の調査)を行っています。
 

▼州毎に異なる対応

Q. 日本では、イタリアやイギリスなどのニュースが多く、ドイツの情報が少ないと感じています。ドイツの新型コロナウィルス対策や暮らしについて教えてください。

A. ドイツは、正式名称はドイツ連邦共和国と言います。この名前から分かるように、アメリカのように、州毎の権限が強い連邦制をとっています。

まず3月に連邦政府がロックダウンを決めました。そしてロックダウンの詳細は州が決めました。州によって状況が異なるため、状況に応じて対応が検討されています。州毎に対応が異なるため、ハンブルク州の取り組みを中心にお話したいと思います。
 

▼日本と似た、ドイツのコロナの対応

感染者数の多かったスペインやイタリアなどと比較すると、ドイツはヨーロッパの中でよい状況だと言われています。

ロックダウンといっても、他国と比べると緩いロックダウンで、日本と同様に外出許可証がないと外出ができないといいうことはありませんでした。

ハンブルク州では、スーパーなど日常生活に関わる店舗以外は休みとなり、ステイホーム、フィジカルディスタンス1.5m、マスクの着用(マスクを着用する習慣がドイツにはありませんでしたので、購入は難しく、みな手作りでマスクを作りました)、会う人の数の制限、州を超える移動や観光は厳しく制限されましたが、日用品の買い物以外にも公園に行ったり、運動のため自転車に乗ったり、走るなど近距離移動はできました。在宅ワークが推奨されましたが、在宅ワークが難しい人は通勤を続けました。
 

▼公共交通も動いている

公共交通も動いています。ドライバーが多くの乗客と接する機会のあるバスでは、後ろ乗り後ろ降りになりました。また、これまで定期券が無い人はバスドライバーから、直接切符を購入していましたが、直接ドライバーから購入ができなくなったので、乗車前に券売機から切符を購入したり、アプリで購入したりして対応をしています。

ドイツ西部の州のノルトライン・ヴェストファーレン州は電車の本数を減らしたが、混雑してしまい、悪循環になってしまったと友人から聞きました。しかし、ハンブルク州は、首都ベルリン(クルマを保有しない人は約50%)と同様に大都市で、クルマを持たない人が多いです(クルマを保有しない人は約3~4割)。そのため、暮らしと移動を保つため、公共交通の運行を続け、減らすどころか逆に本数を増やしたところもあります。

また、マスクの着用促す放送アナウンスが鉄道、バスの車内や駅の構内などで続いています。そのためか、ベルリンでは若者を中心にマスクの着用率が6割まで減少しているようですが、ハンブルクはマスクの高い着用率が保てているようです(マスクの未着用でも罰金無し)。
 

▼公共交通と自転車を重視する連立政権

Q. 政府はどのように動いていますか?

A. ハンブルク州では2020年2月に州選挙がありました。社会民主党と緑の党の連立政権で、どのような連立政権するか体制の議論を中断して、古い体制でコロナ危機への対応に取り組んできました。6月に入り、連立政権の新体制での議論が再開しました。

ハンブルク州の課題は、都市化が大きな問題となっています。若者を中心に、人が地方から都市圏に引っ越し、人口が増加傾向にあります。そのため、一人当たりの居住空間などの場所が狭くなってしまっています。都市や道路の再配分が必要で、効率が悪く場所をとるため自動車交通をどうするかが議論の中心となっています。

選挙戦の目玉は社会民主党と緑の党ともに交通政策に関することでした。社会民主党は公共交通政策、緑の党は自転車政策に主眼を置いています。選挙後、緑の党と社会民主党の連立政権が決まり、また新しい交通大臣が決まりましたので、州の交通政策が変わり始めています。
 

▼2030年までにバスを40%、自転車を30%にする

コロナ前の計画ですが、連立政権では、すべての人が5分以内に公共交通にアクセスできて乗れるようにするように目指しています。そのためSバーン、地下鉄、バスの拡大を行っており、2030年までに、バス交通分担率を40%に引き上げる目標を掲げています。

加えて、自転車の交通分担率も2030年までに30%に引き上げる計画をしています。

公共交通と自転車は競合する移動手段ではありません。しかし、選挙後、連立政権が決まり、今後自転車と公共交通のどちらを優先させるかなど調整が必要になります。
 

▼計画を前倒しで、自転車道を整備。変わる欧州の都市

Q. コロナで交通政策にどのような影響が出ましたか?ドイツは日本と同様に、自動車メーカーを抱え、欧州の中でもクルマ中心で自転車事故が多いイメージです。

A. コロナで、移動が減少したため、道路が広くなり、空いたスペースで、子どもが遊べる空間ができるなど、新しい街の生活を市民は体験しました。

またフィジカルディスタンス1.5mを空けるためには、道路空間の使い方を見直す必要性が出てきています。たとえば自転車は、これまでは交通安全を中心に考えてきましたが、健康への影響を鑑みてフィジカルディスタンス1.5mを意識して計画するようになりました。

ベルリンでは、クルマのための道路空間を減らすため、車道の1車線をつぶして、自転車道などにする計画を立てていました。コロナを機会に捉えて、その計画を前倒しで進め、社会実験的に活用するポップアップバイクレーンを増やしています。

ハンブルクでも内環状線が3つありますが、自動車の交通量がパンデミックの前から減少しており、空間の再配分を進めています。

ドイツ以外の都市でも、自動車の交通量の多い都市でも、健康被害を軽減するために、都市部への自動車の流入を制限したり、速度制限するなどの施策を行っています。

ブリュッセルは自動車社会でしたが、クルマが走る車線を封鎖したり、都心部の走行速度を時速20kmに制限したりして、歩行者や自転車に街が開放されました。

パリも4車線道路が封鎖され、歩行者と自転車中心になり、パリ市民は待ちに待っていたように自転車で移動し始め、パリの自転車利用者はオランダよりも多いような状況になっています。

また、ハンブルク州では、公共交通の利用を促進する施策も始めています。これまでは、週末は1人が定期券を持っていれば、もう一人を連れて運輸連合の全域を移動できます。その対象期間を広めて、夏休みの間は平日でも11時以降は同様に適応されます。また割引券が出てきています。
 

▼2006年に道路の概念が変わった

ドイツでは、2006年にできた新しい道路整備ガイドラインで、道路の概念が変わりました。ガイドラインでは、道路を考える際に外から内へ考えることが推奨されています。まず歩行者、自転車、公共交通、自動車の空間の順番で道路空間を考える順番です。時間をかけながら「道路は自動車のためではなく、人のためのもの」と設計者や生活者の思考を変えていっています。

道路整備のマニュアルを作るのは、政治家が決めるものではく、技術者が決めるもので、法律になっていません。法律的な拘束力がないため、日本の設計基準よりも自由です。法律ではないため、理由が説明できれば柔軟に街の実情に合わせることができます。技師が決めることができるため、世論を聞きながら決定することができます。
 

▼日本と異なる自動車産業への世論

Q. ドイツも日本と同様で自動車産業を抱える国ですが、コロナで自動車利用者はどう変化しましたか?

A. パンデミック前から、自動車の販売台数が減るなど、自動車産業の経営状況が不安定になっており、自動車産業側から自動車の購入補助金を出して欲しいと要望を出したところ、国民からは、大きなバッシングを受けています。

リーマンショックの際も同様の要望があり、購入補助を出したが、効果が無かったようです。「高収入者のために、なぜ2台目3台目の補助金を出さないといけないのか」という反対になったようです。国民からだけでなく、経済の専門家や日本経済新聞社のような経済紙にも「なぜ変わらないといけない古い産業にお金を出すのか」という声が出ています。
 

▼コロナは、都市や交通を見直すチャンス

Q. 日本とドイツと比較して感じることは?

A. 日本の道路空間は、まだまだ自動車を中心に考えていると感じます。大都市での生活を考えると、日々の生活は自動車移動ではない場合が多いと思います。しかしその実態が道路に反映されていないのではないでしょうか。

コロナを契機に、移動の習慣を見直す人が多くなっています。歩いたり、自転車に乗る人が増えているし、距離も変わってきています。暮らしやすいまちになっているか、どんな街がよいのか考えるちょうどよい機会にするとよいでしょう。

 

(インタビュー日:2020年6月24日)

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