JCOMM実行委員会では、平成31年4月中旬までに、ご応募・ご推薦を頂いた取り組み・研究の中から、
令和元年度JCOMM賞の各賞受賞者を選定いたしました。本年度はプロジェクト賞3件、デザイン賞1件、マネジメント賞1件となりました。
受賞者の方には、第十四回JCOMMにて表彰を行います。
題目 | 戸別訪問による公共交通沿線住民への利用促進啓発活動の普及へ向けた取り組み |
受賞者 |
富山市 富山地方鉄道(株) (株)計画情報研究所 |
受賞概要 |
地方の公共交通が衰退するなか、インフラの老朽化、運転手等の人手不足、利用者の減少といった課題を抱え、運行の維持に苦慮する交通事業者が新規に利用啓発活動を実施することは大きな負担となります。 本プロジェクトでは、公共交通の利用促進を図るため、沿線人口が多いにもかかわらず公共交通の利用が少ない地区を対象とし、特定の駅やバス停において戸別訪問やアンケートの手法により、交通事業者と市が合同で利用啓発を行い、事業期間(平成28年度~30年度)において、効率良く効果をあげられるモビリティ・マネジメント手法を標準化し、様々な交通事業者が自主的に利用啓発活動をできるよう「戸別訪問による公共交通利用促進の手引き」を作成しました。 戸別訪問による利用啓発は、沿線住民への公共交通の利用状況の聴き取りや、訪問した地域に特化した時刻表などの利用啓発ツールをお渡しすることで、身近な公共交通の利用を自分ごととして考えていただくことにつながり、沿線住民の意識転換を促す効果がある一方、交通事業者や自治体にはノウハウがなく、門前払いや苦情を受けるのではないかという意識的なハードルも高いことから、本プロジェクトのような実施に向けた協力体制や支援が必要であると考えます。 今回、戸別訪問を実施した地区では、概ね公共交通の利用者が増加傾向にあり、利用啓発活動の効果を確認できたほか、本プロジェクトを通じて、交通事業者と市が協力して利用啓発活動を実施するための素地の形成ができ、様々な交通事業者に主体的に利用啓発活動をしていただくための支援内容の検討や交通事業者の負担も考慮した手引きの作成につなげることができました。 |
JCOMM実行委員会から | 戸別訪問という実施者にとっては手間がかかるが、大きな効果が期待できるMMの手法を地道に取り組まれてたことが評価されました。また交通事業者が主体的に持続可能となるよう利用啓発活動の戸別訪問キットが作成されており、そのノウハウの今後の広がりにも期待できることから、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。 |
題目 | 「災害時MM」平成30年7月豪雨発災後の広島~呉間の交通マネジメント |
受賞者 | 広島・呉・東広島都市圏災害時交通マネジメント検討会 |
受賞概要 |
平成30年7月の西日本豪雨災害は,広い範囲で同時に発生した土砂洪水氾濫により深刻な被害をもたらした.特に広島市〜呉市間は,広島呉道路やJR呉線が長期に渡り寸断した.その結果,広島〜呉間を接続する国道31号に大量の自動車が集中し,深刻な渋滞により市民生活や企業活動に甚大な影響を及ぼした. これに対し,様々なTDM/TSM施策を複合的,迅速かつ大胆に講じた.災害による被災地域での交通の確保の戦略を,「早期に公共交通の所要時間の速達性・安定性を確保する」,「被災者の感情を考慮して自動車交通に過度な影響を与えない」ことの両立と,「確実性」を重要視し展開された.展開された施策には,「災害時BRT」,「災害時HOV」,「自動車専用道路上のバス専用レーン」等,これまでに例のない施策が打ち出された.また,市民へのコミュニケーションも重視し,これらの取り組みの内容を,行政各機関のホームページやTwitter/Facebookからきめ細やかに発信された.その結果,公共交通の利用者の増加や渋滞の緩和へとつながった. 対応体制は発災直後に設立された,国土交通省・広島県・広島県警・呉市・NEXCO等で構成する「広島県災害時渋滞対策協議会」で検討が進められた.並行して被災地である呉市では,産官学の検討組織「呉市渋滞・対策チーム」が組織された.これらから学識者・経済関係者もメンバーに加えた「広島・呉・東広島都市圏災害時交通マネジメント検討会」へと拡張し,専門的見地からの検討と意思決定ができる場として機能した. なお,現在では交通混乱は収束しているが,「広島・呉・東広島都市圏災害時交通マネジメント検討会」では,将来に備え,何らかの交通障害が発災した際には直ちに開催され,対応を議論する場と位置づけられている.対応が落ち着いた現在でも,風化の抑制と今後の備えとして職場MM(通勤交通強靭化の取り組み)を実施している. |
JCOMM実行委員会から | 西日本豪雨災害による渋滞対策や移動手段確保といった緊急性が求められる状況下において、TDM/TSM施策を複合的かつ迅速、また確実に実施されています。また一過性の取組ではなく、今後の災害対応への継続的な取組が進められている点も評価され、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。 |
題目 |
西日本豪雨災害時の公共交通情報提供プロジェクト ~システムの緊急開発と実装,評価~ |
受賞者 |
伊藤昌毅(東京大学 生産技術研究所) 諸星賢治((株)ヴァル研究所) 神田佑亮(呉工業高等専門学校) 太田恒平((株)トラフィックブレイン) 森山昌幸((株)バイタルリード) 藤原章正(広島大学大学院国際協力研究科) |
受賞概要 |
平成30年7月豪雨では,広島呉道路(クレアライン)やJR呉線に斜面崩落が発生し,長期にわたる通行止・運休が余儀なくされた.その結果深刻な渋滞が発生したり,交通手段が確保されないことにより,移動困難者が発生した.インターネットホームページやスマートフォンのダイヤ検索アプリが,また広島都市圏ではバスダイヤ・位置情報発信サービス「BUSit」が広く普及しているが,運休情報や頻繁に変更となる臨時交通サービス情報にこれらのサービスが即座に対応できないなど,公共交通情報提供サービスも機能しない状態となった. 本プロジェクトでは,災害等で公共交通の運行が不安定・不確実な場合においても必要な情報をリアルタイムかつ一元的に参照できる公共交通情報提供を目指す研究会を応急的に立ち上げ,関連する地方自治体,スタートアップ企業,学術機関,公共交通事業者等を巻き込み,わずか2週間で豪雨災害からの復旧時のリアルタイム情報提供システム「d-TRIP」を構築し,実装した. これらのシステムは災害時の自動車から公共交通への転換や,災害による出控えの緩和などに大きく貢献するとともに,「災害時対応型バスロケによるバス走行位置情報提供」は,市民からの強いニーズに応えて実施期間を当初の予定より延長して実施することとなった.またこのシステムの開発と運用に関する費用は外部(行政を含む)からの補助,財源を一切受けておらず,極力既存のリソースを有効活用し,ローコストで構築している. 上記のように,災害時の状況を踏まえた柔軟な対応を講じ,迅速に実現するとともに,非常に経済的なシステムを構築し,市民に支持された点は非常に意義深い.一方で理想とした情報提供像は時間的制約から実現できなかったが,より便利で役に立つ災害時の情報提供に向け,今回の豪雨災害の経験から検討を深めているところである. |
JCOMM実行委員会から | 災害時の混乱中、ポランタリーな体制で、2週間という短期間で迅速に公共交通のリアルタイム情報提供システムを構築・実装した取組姿勢、また被災地と外部地域と連携し、既存のリソースを有効利用することにより低コストでシステム構築している点が高く評価され、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。 |
題目 | 新高校生(中学3年生)とその保護者対象の公共交通利用促進モビリティ・マネジメントリーフレット「合格祈願 エコ通学のススメ」 |
受賞者 |
群馬県県土整備部交通政策課 齋藤 綾(AYA DESIGN OFFICE) 筑波大学公共心理研究室 |
受賞概要 |
群馬県では、高校生向けの公共交通利用促進の一環として、「合格祈願 エコ通学のススメ」リーフレットを作成し、新高校生となる中学3年生とその保護者に、高校のオープンスクールで配布した。 ■受験生の関心を引く、手に取ってもらえる、飾ってもらえる「合格祈願 お守り」デザイン i) 合格祈願お守り型:「合格祈願」お守りの形を基本とし、上端左右の角の切り取り線でカットするとお守り型になる。表紙には、お守りに見られる紐の結び方「二重叶結び」をデザインし、実際に紐を通すことができる。 ii) 梅紋を基調としたデザイン:表紙やページ余白に、学問の神として親しまれている菅原道真公の象徴「梅紋」を使用。ページ毎に色彩と梅紋のデザインを変化させ、ページをめくる楽しさを感じられる構成とした。 iii) 豆知識としてバスに関係した俳句を掲載:i)の上端を切り取った三角形の部分には、バスに関係した季節ごとの俳句を掲載、受験生を意識しつつ、楽しめるデザインに仕上げた。 ■分かりやすい構成と活用しやすい通学プラン A. 完結で分かりやすい文章とイラストやグラフ、四コマ漫画の活用 B. 捨てられにくいお守り型、お守りは捨てづらいことを逆手に取った、高校入学まで保存してもらうための工夫。 C. 高校生が通学手段を決める時に、保護者が関与している割合が高いことから、保護者向けのメッセージを盛り込むことで、公共交通への転換を効果的に促す工夫をした。 D. 裏表紙には、希望校と自宅から高校までの通学プランを記入できる欄を設け、公共交通を利用した通学のシミュレーションをすることができる。さらに、志望校をイメージすることで合格の可能性が高まることも願いとして込められている。 今回作成したリーフレットの配布効果を測定するため、2019年夏にアンケート調査を予定している。この効果を確認しながら、引き続き、公共交通利用促進に努めていきます。 |
JCOMM実行委員会から | 新高校生(中学3年生)の関心にあわせたお守り型冊子は意匠性が高く、機能性についても動機づけ情報の多くは実績のある従来のMMのものをもとにしていることもあり、利用者にわかりやすい内容になっています。また、特に地方部での公共交通利用促進には高校生の通学利用がポイントになっており、この冊子の実務的活用可能性も極めて高く評価されることから、JCOMMデザイン賞として選定されました。 |
題目 | BRT・新バスシステムを契機とした持続可能なバス交通体系の構築 |
受賞者 |
新潟交通株式会社 新潟市 鈴木文彦 |
受賞概要 |
新潟市では、平成19年の政令市移行を機に、「にいがた交通戦略プラン」を策定し、持続可能な公共交通体系の構築を目指し、交通ジャーナリスト鈴木文彦氏の助言・提言のもと、新潟交通㈱と協働してバス利用の促進を図ってきました。具体的には、まずオムニバスタウン事業により、バス停上屋の整備をはじめ、基幹バス路線やバスICカード「りゅーと」を導入しました。平成22年には「新潟市MM推進協議会」を立ち上げ、ノーマイカーデーの実施など利用促進に向けた施策を現在まで継続的に検討・提案しています。 そのようななか、バス交通体系を持続させるための抜本的な取り組みとして、都心部でのBRT導入とゾーンバスシステムによる路線再編からなる「BRT・新バスシステム」を平成27年に導入しています。これを契機に平成29年には世代別に市内のスポットをバスで巡るコースを紹介する「ぶらばすサイト」を開設、さらに平成30年より子供たちとファミリー層に対し、バスの乗降方法やマナーなどを伝える「スタンプラリー」を実施しました。この他にも、車両展示会や整備棟見学ツアーなど、多様多種なMM施策を計画的に連続して行っています。 バスサービス自体に対しても定時性の確保と都市圏ネットワーク全体のサービスレベルアップに向けた運行ダイヤ改訂、バス接近情報の提供を重ねてきました。さらに公募デザインのラッピングバスやバリアレス縁石の導入なども進めています。また、鈴木氏をはじめ専門家や市民から構成する「新バスシステム事業評価委員会」により、PDCAサイクルを通じ、フォローアップや将来を見据えた施策を展開しているところです。 このように官民が協働・連携し、MMを推進してきたことで、長きにわたって減少し続けてきた路線バスの利用者数は、新バスシステム・BRTの導入以降増加に転じており、今後もこの流れを継続できるよう、より効果的な施策の推進に努めて参ります。 |
JCOMM実行委員会から | 政令市移行後10年という長期に渡り、上位計画に基づく体制を構築し継続的にMM取り組まれています。またその結果、「BRT・新バスシステム」の運行を契機として持続可能なバス交通体系を構築してバス利用者の増加にいたる顕著な成果を達成していることから、JCOMMマネジメント賞として選定されました。 |