令和3年度JCOMM賞の受賞者

JCOMM実行委員会では、令和3年4月末までに、ご応募・ご推薦を頂いた取り組み・研究の中から、令和3年度JCOMM賞の各賞受賞者を選定いたしました。本年度はマネジメント賞1件、プロジェクト賞2件、デザイン賞1件、技術賞1件となりました。

受賞者の方には、第16回JCOMM熊本大会にて表彰を行いました。
※各タイトルをクリックすると受賞ポスターをご覧いただけます。

マネジメント賞

大分県豊後大野市における「大人の社会見学」事業(豊後大野市・大分県立三重総合高校・大分大学経済学部の3者連携協働事業)

豊後大野市/大分県立三重総合高等学校メディア科学科/大分大学経済学部経営システム学科大井尚司研究室/日本工営株式会社

 

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受賞概要
a)背景と目的
 地方部での公共交通利用者は減少傾向にあるが、交通弱者の移動手段確保のためには、公共交通の持続可能性の担保について、地域の関係者が一体になって向き合う必要があると考えた。本プロジェクトでは、自治体と地域の大学・高校が連携して、公共交通利用のきっかけとなる社会実験(外出支援)を行うとともに、実験効果の検証、公共交通に対する潜在需要・ニーズの調査を行ってきた。なお、市の地域公共交通活性化の事業の一環として実施しているため、技術指導を含め日本工営株式会社(コンサル)も参画している。

b)プロジェクトの内容
 2013年度の潜在需要調査に始まり、その結果を踏まえ2014年度から利用促進のための外出支援イベント「大人の社会見学」を実施した。2014年度は高校生を入れずに行ったが、その後高校・大学・市の三者連携協定が締結されたことから、2015年以降高校・大学・市の共同による現在の形態になった。内容は、大分県豊後大野市内の1地域(2014年度のみ2地域)で、高齢者と学生の交流企画や買い物支援等を含めたバス乗車体験イベントを行い、イベント後参加者の各家庭で日常生活実態や生活満足度、移動手段、公共交通の利用状況や要望などを確認した。また、地域及び高校生が地域公共交通に対する意識が変化したかを、調査により検証した。

c)効果
 2014年度の社会実験実施1地域で、実験直後から自発的な外出需要が生まれ、コミュニティバスの認知とともに利用が急増し現在も継続している。ただ、その他の実施地域では、1地域が実験の3年後商業施設閉鎖の影響で需要が伸びたのを除けば、地域特性や住民特性により利用が伸び悩んだ。さらに、イベントの参加者確保や、参加者の公共交通利用促進という面では、当初想定していた潜在的利用者の参加が少なかった。高校生・大学生は、地域住民と話したことや活動したことで地域での移動や生活を考えるきっかけにはなった。

d)今後に向けて
行政ニーズとしての社会実験の地域設定や集客の課題、イベント参加者と公共交通の潜在的需要者との不一致、その後の利用者減の傾向など、経年での社会実験を踏まえて、本プロジェクトが必ずしも即効性のある成果をもたらしたと言えなかった面は否定できない。とはいえ、協働でのサービス改善の取り組み、参加した高校生の地域に関する関心向上、地域でのニーズ発掘などには効果があったといえる。このような事業を一過性にとどめず継続したことで、高大連携や学校と地域の連携という点では存在意義を認められていることは事実であり、コロナ禍の終息後も新たな形態での継続を考えている。

JCOMM実行委員会から
 自治体・高等学校・大学の連携と役割分担により地域住民のバス利用促進に取り組むとともに、地域公共交通網形成計画にも位置付けられている点が高く評価でき、大人の社会見学という魅力的なネーミングも秀逸でした。プロジェクトによって、参加者のコミュニティバスへの理解度の向上や一定の地区でイベントをきっかけにしたバス利用者の定着や利用促進など地区主体の動きもみられ、取り組んでいる高校生の人材育成効果も確認されていることからJCOMMマネジメント賞に選定されました。

 


プロジェクト賞

未来の交通情報が比較できる検索サービスを中心とした行動変容増進アプローチで大規模道路交通イベントに伴う社会的影響の緩和を目指す取り組み

阪神高速道路株式会社/阪神高速技研株式会社/株式会社メディアエムジー/株式会社ナビタイムジャパン

 

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 本取り組みは、近い将来、重要な社会インフラの大規模修繕・更新等による大規模交通規制が頻発する時代の到来を見据え、多様な情報ニーズへの対応と社会的影響の緩和への寄与を重視して構築した“移動計画支援サービス”を活用した交通影響対策であり、大規模修繕・更新工事や都市内の大規模イベント等の実施に伴う大規模道路交通イベントを対象に、その計画時に試算する交通影響予測情報を、利用目的に応じた複数のオンデマンドサービスにより比較形式にて効果的に提供することで、社会的影響の緩和に繋がる行動変容(経路変更、時間帯変更、交通手段変更)の実行を後押しするもので、本サービスのように、高速道路と公共交通の未来の交通情報のシームレスな比較を通じてモーダルシフトを促すサービスは、高速道路会社としては初めての試みである。
 そのアプローチは、従来のような全体情報を一方向的に配信(情報告知)して利用者に理解を求めるのではなく、オンデマンドな情報検索環境を備えた移動計画支援サービス(特設サイト)を中心に据えて、様々な広報媒体を通じて特設サイトに集客し、個別情報の能動的な取得(情報検索)を促すことで、多くの利用者の多様な情報ニーズに対応するもので、各々の利用に対する適切な行動変容についても、交通影響予測に基づく予測所要時間を指標とした定量比較を通じてその具体的な利点をフィードバックすることで、多くの利用者の計画的な実行への動機付けに繋げていくものである。
 なお、本取り組みは、大阪都市圏の高速道路ネットワークの心臓部ともいえる阪神高速1号環状線の南行き区間(梅田→夕陽丘)における10日間の終日通行止め工事(2020年11月)の実施にあたり、通行止めにより危惧された大阪都心部での甚大な交通影響を緩和することを目的に導入されており、本取り組み等の実施により、定量的にも利用者の実感的にもその影響を相応に緩和させることに成功している。

JCOMM実行委員会から
 高速道路の大規模改修時代を迎えて、長期間通行止めによる影響の軽減が重要課題となっており、利用者の渋滞をさける行動変容(経路変更、時間変更、交通手段変更)による利用の分散が不可欠です。従来の一方向的な情報告知から、個別情報の能動的な取得(情報検索)を促して行動変容へ導くことによって大きな改善効果をもたらした本取組は、今後の工事・イベント時等の交通マネジメントの規範となることが期待されることから、JCOMMプロジェクト賞に選定されました。

 


プロジェクト賞

アクティブシニアを対象とした荒尾市モビリティマネジメント~3年間継続の秘訣~

荒尾市総合政策課/許斐信亮(日本工営株式会社)/内村圭佑(日本工営株式会社)/園田一樹(日本工営株式会社)/溝上章志(熊本学園大学)/前田莉花(元熊本大学溝上研究室)

 

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受賞概要
 荒尾市では、高齢者が増加傾向にあり、移動弱者に対する移動手段の確保が問題視される一方で、公共交通利用者は減少傾向にあり、運行赤字が増大する等、課題を有している。持続的な公共交通運営には、利用者の確保が不可欠であるため、平成30年度より、高齢者の公共交通への移動手段の転換や外出機会の増大を目的としたMMを実施している。
 アクティブシニアである体操教室参加者(H30d:540名、R1d:216名、R2d:168名)を対象とし、運営者の福祉関係者と協力して、フルセットTFPによるMMを実施したことで以下の効果を得ることができた。
  ①運営者との協力関係の構築により、継続的なMMへの参加協力を得た。
  ②庁内においてMM実施の重要性を共有したことで、継続的な予算確保に至った。
  ③MM期間中、非利用者の約10%が新たに公共交通を利用。
  ④長期的な転換効果として、MMから約1年後、H30d:26名、R1d:18名が新たに公共交通を利用。
 MMは単年度のみの実施となる例が多いが、荒尾市では、3年間にわたるMMの実施に至ったため、継続的なMM実施を可能としたポイントを整理した。
  ①福祉関係者との協力関係の構築
 MM担当課に福祉部門から担当者が異動してきたこともあり、MMのキーマンである福祉関係者と初期段階から方向性を共有できた。福祉関係者は、高齢者が移動に困っていることを把握していたが、現場の声を共有する場が無かった。しかし、人事異動を通して、課題の共有を図り、協力関係の構築に至った。また、継続的な協力関係のため、定期的に協議の場を設けている。
  ②継続的な体制確保
 路線バス運行に係る補助金額は増加傾向にあり、市の財政負担となっている。そこで、利用者確保の取組みとして、網計画(H30.3策定)でMMを実施事業に掲げた。庁内全体で、補助金額の軽減には、効率的な公共交通サービスの提供だけでなく、ソフト施策であるMMによる利用者確保が必要という認識を共有し、継続的な実施体制・予算確保に至った。

JCOMM実行委員会から
 福祉関係者との協力関係を構築し、3年間にわたり、アクティブシニアの参加者一人一人に寄り添った丁寧なTFPを実施されました。その結果、高齢者の公共交通利用促進や免許自主返納者増加などの効果があったことを、しっかりと検証されています。MMプロジェクトとして完成度が高く、極めて優れた事例として評価できることから、JCOMMプロジェクト賞に選定されました。

 


デザイン賞

新型コロナウイルス感染拡大防止に関わる車内掲示ポスター

福本雅之(合同会社おでかけカンパニー)/武末出美(株式会社早稲田大学アカデミックソリューション)/井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

 

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 新型コロナウイルスは交通事業者にも大きな影響を与えた。特に、感染拡大初期において有効な感染防止策が明らかとなっていない状況下でも、交通事業者は必要不可欠な移動を守るために運行の継続が求められた。そして、日々の運行を維持することに忙殺され、自社が行っている感染拡大防止策のアピールや利用者に対する協力事項などの情報発信が不十分であるという課題があった。
 これに対して、交通事業者が実施する感染拡大防止の取り組みを発信し利用者の安心を確保するとともに、利用者に対しては乗車時に協力を求める内容を示した車内掲示用のポスターの提供を行った。
 ポスターの制作にあたっては必要な情報をより多くの人に届けるために、ユニバーサルデザインに配慮した。ピクトグラムおよび全体のカラー構成においては、東京都カラーユニバーサルデザインガイドラインに準拠し、多様な色覚に配慮したカラーを採用している。テキストにおいても同様に多様な利用者の視認性および可読性に配慮したユニバーサルフォントを採用している。また、交通事業者が状況に合わせて簡易に改変できるよう汎用的なオフィスソフト(Microsoft Powerpoint形式)のみで作成した。
 作成されたポスターは、特設サイト「新型コロナウイルスによる交通崩壊を防げ!(https://covid19transit.jp/)」などを通じで無償配布を行い、確認されているだけでも70社以上の交通事業者・自治体で活用されている。当初想定した利用場所は車内掲示のみであったが、バス停や営業所、デジタルサイネージや除菌シートの包装などの様々な利用シーンで活用され、利用者の安全・安心の確保に貢献した。

JCOMM実行委員会から
 様々な公共交通空間で活用可能な統一フォーマットでありながら、事業者の事情に合わせて改変可能である「機能性」、そして「スピード感」、さらに、事業者の努力への「共感」と利用者の「協力」と「行動変容」を促すメッセージ性がコロナ禍での業務過多と人手不足に直面している事業者に歓迎されました。まだ終わりが見えないCOVID禍での今後の発展も期待し、JCOMMデザイン賞に選定されました。

 


技術賞

モビリティの地産地消に着目した動機付け情報の開発

中島隆汰(東京理科大学大学院)/田中皓介(京都大学大学院(元東京理科大学))/寺部慎太郎(東京理科大学)/栁沼秀樹(東京理科大学)

 

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 本研究は、自家用車から公共交通への行動変容のための新たな動機付け情報として、地域経済的な意味での“地産地消”という観点を提案し、交通手段選択の影響を実証的に示すものです。自家用車においてはメーカーへの支払い等により地域外へ資金が流出する一方、公共交通においては人件費という形で資金が多く地元に帰着することが想定されます。したがって地域経済への貢献度においても公共交通は自家用車よりも優位なのではないかと考えられ、本研究ではそれを実証的・定量的に明らかにしました。なお、本研究成果は、個人の行動変容のための動機付けにとどまらず、地域の公共交通に公的資金を投入し支援することの正当性の根拠となるものと考えられます。
 具体的な方法としては、利用者の支払額のうち地域に帰着する額の割合を表す「帰着率」という指標を用いて交通手段ごとの地域経済への貢献度を評価・比較しました。分析対象については、公共交通の利便性も一定程度確保された地方都市の公営交通である熊本市電を選定し、自家用車については平均的な各支出額を様々な統計データから引用しつつ地域性のあるデータに関しては熊本市の値を用いました。
 分析の結果、市内への帰着率は、公共交通である熊本市電で59.9%、自家用車で35.1%という値が算出され、熊本市電は自家用車よりも約1.5倍地元地域への貢献割合が大きいことが明らかになりました。この理由としては、熊本市電は事業者の支出のうち56.4%が人件費として地元居住者に支払われていること、対して自家用車では支出額の48.6%を占める車両本体価格が自動車メーカーの所在する地域に流出してしまうことが挙げられます。この結果から、公共交通の利用増進は地域経済の維持・活性化に繋がることが実証的に示唆されました。

JCOMM実行委員会から
 公共交通の地域における価値について、地域経済に与える影響を数値的に示し、自治体などがMMを実施する動機付けや根拠として有益な情報提供の可能性を示しました。これまで定性的に語られていたことが、具体的な数値として示されたことは、MMの発展に大きく寄与すると考えられます。さらにそれが実用化を見通せるレベルでまとめられており、その実務への応用可能性も高く評価できることから、JCOMM技術賞に選定されました。

 


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一般社団法人日本モビリティ・マネジメント会議 事務局
〒615-8540 京都市西京区京都大学桂
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