令和4年度JCOMM賞の受賞者

JCOMM実行委員会では、令和4年5月2日までに、ご応募・ご推薦を頂いた取り組み・研究の中から、令和4年度JCOMM賞の各賞受賞者を選定いたしました。本年度はマネジメント賞2件、プロジェクト賞1件、デザイン賞2件となりました。

第17回JCOMM松江大会にて受賞者の表彰と、受賞者による講演を行います。

マネジメント賞

自動車教習所の無料送迎を路線バスで代替(三方よしのバスサービスの実現)

阪神バス株式会社/尼崎ドライブスクール(アスモ株式会社)/近畿運輸局/一般社団法人グローカル交流推進機構

 

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―受賞概要―
・背景と目的
コロナ禍において、乗合バス事業の収支改善の必要性がより強まっているなか、阪神バスでは 、 公共交通を維持発展させていくため、 自社だけでなく、地域社会と一体となった効率化が必要不可欠と考え、沿線企業と連携した新たな取組みを検討した。

・プロジェクトの内容
阪神バスは、令和3年7月31日から、自動車教習所(尼崎ドライブスクール(アスモ㈱))が無料送迎により行っていた教習生の輸送を、重複する路線バスで代替する取り組みを開始した。教習所は、削減した無料送迎コストの一部を充当して阪神バスとの大口契約で全線フリー乗車券を購入し、教習生に配布する(教習手帳を乗車券として使用)。教習生は、阪神バス乗車時に教習手帳を運転者に提示することで、教習所に通う以外の移動も含めて、無料で阪神バス全線が利用可能となる。

・効果
教習生に対するアンケート調査を行ったところ、以下のような取り組み結果が見られた。
1.路線バス事業の持続性向上(新規の輸送人員、運送収入増加)
2.関係者(教習所)のメリット創出(より広範囲からの集客)
3.関係者(教習生)のメリット創出(利便性向上、プロドライバーの運転技術学習機会創出)
4.教習生の意識や行動の変容(利用機会創出によるバス利用意識変化、阪神バス全線無料による行動変容)

・結論
路線バス事業の持続性を向上させながら、関係者にメリットをもたらす点で、三方良しとなるうえに、主に若年層を対象とするバス利用機会を通じたMMを、効果的かつ継続的に実施することが可能となる。さらに、一日教習生に対する運賃返金システムの構築により、単発利用者が多い病院や商業施設等の無料送迎への汎用可能性がある。

―JCOMM実行委員会から―
教習所の無料送迎を路線バスに置き換えることで路線バスの便数維持をはかるだけではなく、全線フリー乗車券を生徒に配布することによってバス利用促進をすすめ、生徒の行動範囲が拡大しました。また適切な推進体制を構築することより財源的にも持続可能な取り組みになっている点も高く評価され、他地域への展開も期待できる波及効果の高い一連の取り組みであることから、JCOMMマネジメント賞に選定されました。

 


マネジメント賞

定時速達性に優れた基幹バスシステムの導入をはじめとする沖縄県公共交通活性化推進協議会の取組

沖縄県公共交通活性化推進協議会

 

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―受賞概要―
沖縄県は、基幹軸としての鉄道を持たない国内で唯一の地域であり、都市の拠点性が希薄なことや、駐留軍用地により市街地が中南部都市圏全域に分散していることで、自家用車への依存が高くなり、慢性的な交通渋滞が発生している。
自家用車交通中心の交通体系には、道路インフラ整備等の限界があり、今後進む高齢化社会等も見据え、自家用車と公共交通を適切な役割分担ができる社会環境への転換(道路インフラ整備のみならず県民の意識や行動の変容)が必要と考え、学識経験者、交通利用者、民間事業者、行政関係者等で組織する「沖縄県公共交通活性化推進協議会(以下、協議会)」において「基幹バスシステムの導入」の実現に向けて協議を進めてきた。
本施策は、沖縄本島中南部(那覇市~沖縄市間)の幹となる公共交通軸を構築するための取組であり、持続可能な県民生活を支えるためにも重要となっている。
本施策の実現に向けて、協議会メンバーでもある様々な関係機関の協力により、「バス専用レーンの延長及び沿道の交通安全対策(H26~30)」、「IC乗車券の導入(H27)」、「急行バスの導入(H30)」、その他沿線住民や学校へのモビリティ・マネジメント実施等、数多くの取組を持続的に展開してきた。
これまでの取組により、路線バスの定時性・速達性や利用者の利便性の向上、沿線住民の公共交通に対する理解につながり、結果としてバスレーン延長を実施した区間のバス利用者数が7%増加(H23→R元)することができた。
しかしながら、「基幹バスシステムの導入」に向けた取組は道半ばであり、更なるバスレーンの拡充、交通結節点整備、バス網再編、沿線住民をはじめとする県民の合意形成等の取組が必要とされている。今後も引き続き、協議会を活用しながら、関係機関と連携して取組を推進していくとともに、コロナ禍の影響により大幅減収となった公共交通事業者が運行継続できる取組も対応していく。

―JCOMM実行委員会から―
法定協議会を組織し、15年間継続して施設整備、TDM、MMなど多様な施策を関係者間の合意形成を丁寧にはかりつつ、沖縄都市圏の広域の交通マネジメントを高い戦略性のもとに実施されています。バス交通の系統別カラーリング、バスロケなどこれまで提案されてきた制度や施策を適切に組み合わせて継続的に実施することによって、地域交通のマネジメントを実現している一連の取り組みであることから、JCOMMマネジメント賞に選定されました。

 


プロジェクト賞

ICカードやバスロケーションデータを活用した、EBPM推進の取組

今釜卓哉(九州産交バス株式会社)/萩原崇寛(株式会社Will Smart)/森岡諒(株式会社Will Smart)

 

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―受賞概要―
熊本地域で2020年4月より全国初のバス事業者5社と熊本県と熊本市で構成する「共同経営準備室」※1が立ち上がった。事業を推進してくうえで、関係者の合意形成が重要であることから、EBPMを推進していく必要があった。1日約5万件のICカードの乗降データや1日約830台/日のバスロケデータがあるが、従前はExcelでの都度集計や案件ごとの外部委託ではコストがかかる問題があった。よって、共同経営を進めていくうえで、担当者自身で簡単に集計や分析を行うため、バスダイヤ分析システムの導入を進める事にした。このシステムは、プログラミング言語を使わずにクリック・ドロップ操作により集計が可能なため、バス会社の職員が手元で色々な角度から集計する事が出来る。OD集計等のよく用いる分析については、予めダッシュボードとして登録しているため、停留所・系統・期間等を選択するだけで、表・グラフ・地図等で簡易かつ分かりやすく可視化できる。構築後も機能強化を進めており、複数会社利用可能な共通定期に伴う精算業務の自動化や、サードパーティーデータ投入等、分析システムは高度化を続けている。
2021年4月より、共同経営計画第1版として重複区間の最適化を行った。ダイヤ改正3か月後には利用者や乗務員のご意見を基に分析システムで確認し、その翌月には改正内容の素案を作成する事が出来た。集計作業が無くなり、スムーズな分析が出来る様になった事からサービス反映が早くなった好例である。
今回の事例がICカードの乗降データや、バスロケデータを活用した、交通計画は交通事業者、行政、コンサル等が各方面で行っており、この内容を全国に発信することで、集計に時間をかけずにデータ分析に時間を割く事で、更なる公共交通活性化施策を迅速に意思決定が行えるのではないか。また、このシステム構築に関する技術は、データがあれば他地区に横展開できるものであり、この取り組みを通して公共交通における迅速なEBPMを推進していきたい。
※1 現在は共同経営推進室に改称

―JCOMM実行委員会から―
ダイヤ改善サイクルのスピードアップやプログラミング言語を用いずに汎用性のあるプラットフォームを構築した点は、応用可能性が高く熊本以外の地域でも適用が見込まれます。また交通事業者の担当者負担軽減にも繋がり、人員不足に苦しむ業界の体制にも貢献できる可能性に期待して、JCOMMプロジェクト賞に選定されました。

 


デザイン賞

公共交通を幼い頃から身近なものに!豊橋出身の絵本作家らと制作!絵本「ガタゴトポーン!トヨッキーのぼうけん」

豊橋市都市計画部都市交通課/高橋祐次(絵本作家)/豊橋市内交通事業者/豊橋市中央図書館

 

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―受賞概要―
1)背景と目的
 社会生活を営む上で重要なインフラの一部である公共交通だが、クルマ中心のライフスタイルが固定化された大人に対し、公共交通への利用転換を促すことは容易ではない。そこで、幼い頃から公共交通に親しみを持ってもらう機会を創出することで、公共交通への興味・関心・愛着の増幅を図る方策として、絵本の制作を試みた。

2)プロジェクトの内容
園児~小学校低学年を対象にした絵本「ガタゴトポーン!トヨッキーのぼうけん」を、以下のポイントに重点を置きながら制作した。
ポイント①
有識者や読み聞かせボランティア、子育て・孫育て世代、保育士、交通事業者と「公共交通の良さとは」など素朴な疑問を話し合う座談会を実施し、絵本にその声を取り入れた。
ポイント②
愛知県豊橋市出身の絵本作家 高橋祐次 氏が座談会を元に絵本を着想。市内の公共交通を登場させながら、擬音語を多用したスピード感を持って楽しめる内容に仕上げた。
ポイント③
絵本は、市内の保育園や図書館、子育て広場などに配架したほか、実際に図書館でおはなし会を実施した。また、おはなし会が市電に出張したイベント電車「おはなしでん」を企画。乗り物をテーマにした読み聞かせなどを車内で楽しむ電車旅を実施した。

3)効果
 おはなし会では、リズミカルな調子に合わせて子どもが口ずさむ様子や、親が子どもに語りかける様子が見受けられた。また、「おはなしでん」の参加者からは、「電車の音と絵本の『ガタゴト』という音がリンクしてよかった」などの好意的な声を頂き、日頃、公共交通を利用しない方への意識醸成を促すことができたと考える。

4)結論
絵本制作やイベント電車など、それぞれを組み合わせて活用・展開することで、公共交通への興味・関心・愛着を持続できるのではと期待している。また、公共交通という同じ切り口でも対象ごとに施策を変えながら、市民、民間事業者、自治体他部署などを巻き込んだアプローチは、今後の様々な利用促進策の検討にも幅広く応用できると考える。

―JCOMM実行委員会から―
絵本のデザイン性はさることながら、保護者世代も「共感」する要素が随所に盛り込まれています。子供を対象にしつつも、従前からの学校教育MMが志向していた、家庭ぐるみという要素が含まれている点は高く評価できます。
また読み聞かせ会の実施や、図書館等の主要施設での配架などの展開戦略も練られており、コミュニケーションのデザインも秀逸であったことから、JCOMMデザイン賞に選定されました。

 


デザイン賞

禁断の検証動画 基幹急行バスVS乗用車 早いのはどっち!?

沖縄県企画部交通政策課/株式会社アカネクリエーション/株式会社TAIGEN

 

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―受賞概要―
令和元年9月、沖縄県が推進する基幹バスシステム構想の一環として、那覇〜コザ間を約60分でスピーディーに結ぶ基幹急行バス「でいごライナー」が運行を開始した。
バスの利用促進を図るとともに、「定時速達性の向上」をわかりやすく伝えるため、「映像の力」を活用し、朝の通勤時間帯に「でいごライナー」と自家用車を実際に走り比べる検証動画を制作してYouTubeで公開した。制作にあたっては下記の点に留意した。

基幹急行バスvs 乗用車「対決の構図」で興味を喚起
「対決の構図」で視聴者の興味を喚起し、映像演出面では、バスとクルマの車載画像を並列で表示し、画面下には現在位置を示すイラストを配置するなど、バスとクルマを比較しやすい表示にした。
ナレーションにおいても、バラエティ番組で使われるコメンテーターのワイプ画像を出す手法を取り入れ、「わった〜バス党」の党首と幹事長がバス派とクルマ派に分かれて、ユーモアを交えた掛け合いでコメントするなど、視聴者が楽しみながら視聴できるよう工夫した。

「バス通勤の快適性」を伝えるキーワードをコメントでアピール
視聴ターゲットとして、基幹急行バス運行エリアに居住するビジネスパーソンや学生を想定し、紹介シーンを朝の通勤時間帯に設定したほか、視聴者が乗車実感できるよう、場面ごとに現在時刻を表示している。
コメントでは「ほぼ時刻表通り」、「バスレーンはスイスイ」など、バスの定時速達性をアピールするキーワードを随所に盛り込み、ふだんクルマ通勤している人にも、バス通勤のメリットを感じてもらえるよう工夫した。

飽きずに視聴してもらえるよう、テンポよくコンパクトに編集
実際の乗車時間は60分ほどあるが、飽きずに視聴してもらえるよう紹介ポイントを絞り込み、約10分に編集している。
今後は受賞した作品の続編として、さらに道路が渋滞する夕方の「下り便」の検証動画を作成・公開し、バスの定時速達性の向上等の周知を行う予定である。

―JCOMM実行委員会から―
動画による公共交通の魅力度の発信、また、バスと車の所要時間比較という切り口など、斬新な方法が取り入れられています。さらにデジタル(動画)によるコミュニケーションのポテンシャルを拡げるための大きな可能性のあるデザインツールであり、その萌芽性、今後の発展性・他地域での拡大も含めて期待し、JCOMMデザイン賞に選定されました。

 


お問い合わせ先(お問合せの際は、問合せフォームもしくはメールからお願いいたします)
一般社団法人日本モビリティ・マネジメント会議 事務局
〒615-8540 京都市西京区京都大学桂
(京都大学大学院 都市社会工学専攻 藤井研究室内)

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