令和5年度JCOMM賞の受賞者

JCOMM実行委員会では、令和5年4月24日までに、ご応募・ご推薦を頂いた取り組み・研究の中から、令和5年度JCOMM賞の各賞受賞者を選定いたしました。本年度はマネジメント賞2件、プロジェクト賞2件、デザイン賞2件となりました。

第18回JCOMM宇都宮大会にて受賞者の表彰を行います。

マネジメント賞

栃木県県央地域における広域かつ長期的な産官学連携による公共交通利活用の取り組み

県央地域公共交通利活用促進協議会 

 

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受賞概要
a)背景と目的
 栃木県県央地域の3市5町(宇都宮市,鹿沼市,真岡市,益子町,茂木町,市貝町,芳賀町,高根沢町)と栃木県は,県央地域の公共交通の利便性向上と利活用促進に向けた啓発活動を行うことを目的に,平成17年度に「県央地域公共交通利活用促進協議会」を設立した。当協議会設立当時,栃木県は自動車の普及率全国第1位に達するなど,全国的に見ても「くるま社会」と言える状況だったことなどから,公共交通に対する意識の転換・行動の変容が求められていた。

b)プロジェクトの内容
 発足から現在まで18年間,3市5町の住民代表,交通事業者,学識経験者及び行政が連携して,現在の公共交通が抱える課題への対応策や,将来的な公共交通の充実に向けた方策を検討しているほか,利用促進に向けた広報活動や意識啓発などに取り組んでおり,近年はLRT(次世代型路面電車システム)導入の本格化に合わせ,整備効果を県央地域内にも広げる取組等について検討するなど,“次世代の公共交通”についても闊達な議論を重ねてきた。

c)効果
 年複数回の協議会や事務局会議,ワークショップを行う中で,公共交通についての見解を深めるとともに,先進事例を視察するなど,委員が連携して広域的かつ長期的な視点で検討を進めており,市町民に対しては,公共交通を利用した各市町の観光モデルコースの紹介に加え,SNSや啓発グッズ等を活用した情報発信を着実に実施しており,活動の成果として,長年減少傾向のままだった公共交通利用者数は,近年,増加の兆しが見られるまでに至った。

d)今後に向けて
 今年度は,全国初の取組である全線新設型LRTの開業のタイミングに合わせ,当協議会が長年に渡り議論・活動を重ねてきた公共交通利活用促進策を,県央地域のみならず,周辺自治体にも波及させるなど,引き続き公共交通利活用に向けた積極的・効果的なモビリティ・マネジメントを実施していく。

JCOMM実行委員会から
 協議会が中心となった公共交通の利便性向上と利用促進に向けた様々な取り組みが、18年と長期にわたり行われ、長年減少傾向にあった利用者数に増加の兆しが見られています。さらにLRTの開業にあわせ、従来の利用促進策を周辺自治体に波及させるなど、活動を「継続」から「飛躍」させていこうという気概が見られます。長年の取り組みと今後への期待が高く評価できることから、JCOMMマネジメント賞に選定されました。 

マネジメント賞

地域経営エコシステムで支える過疎地域の公共交通構築事業

井田いきいきタクシー運営協議会/企業組合井田屋/大田市井田まちづくりセンター/大田市政策企画部まちづくり定住課株式会社バイタルリード石見交通株式会社井田郵便局藤原章正(広島大学)谷本圭志(鳥取大学)株式会社石見銀山生活文化研究所ー 

 

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受賞概要
人口500人未満、高齢化率60%の島根県大田市井田地区では、2019年より地域交通として定額制(月額3,300円で乗り放題)の「井田いきいきタクシー」を導入している。さらに、「サービス改善による利用増」「効率化を図る」ことより一歩進んだ「地域経営エコシステム」という交通の周辺も戦略的に内部化して「支える」しくみを構築した。
本事業は初年度から一貫して、運行計画に合わせた①自治会を中心とした運行支援のしくみづくり(自治会長、民生委員の協力)、②交通を支援する地域経営組織づくり(井田いきいきプロジェクト)を行ってきた。さらに、地域の自発的活動が大きく進展する中で、地域経営組織の発展にあわせた③ふるさと仕送りサブスク、④他者が代理予約しやすいスマホアプリの拡大など、施策の高度化を図ってきた。
このような継続した事業の実施により、以下のような効果が得られた。
・高齢者等の外出が活性化し、外出回数の増加(月4回)、地域イベント等への参加が増加、楽しみの移動(温泉入湯、友人宅訪問等)が増加し、地域での生活満足度や心身の健康状態が向上した。
・井田いきいきタクシーの運行継続により、免許返納者が増加した。
・井田いきいきタクシー利用者の路線バスやJR等の幹線公共交通利用率は、非利用者よりも高くなった。
・定額制の仕組みにより、利用者の支払額が従来よりも高くなり、公共交通としての事業性が向上した。
・行政補助は最小限として、自分たちの交通として自立的に持続可能なしくみを構築している。

過疎地域の交通は、「もはや交通の問題は交通に閉じて解決できない」状況にある。 当該地区は、地域経営組織を中心とした様々な活動の積み重ねにより、地域内の非利用者間にも自分たちの乗り物だという意識が醸成され、自治会長や民生委員が利用促進活動を効果的に担うなど、地域が主体となって持続可能な地域交通と暮らしを守っていることが特徴である。地域経営エコシステムの構築により、各構成メンバーがメリットを持ちながら交通を「支える」コミュニティづくりが実現できた。

JCOMM実行委員会から
 高齢化が進んだ過疎地域において、定額乗合タクシーに加え、高齢者の小さなビジネス創出、代理予約がしやすいアプリ開発、ふるさと仕送りサブスクなど、創意工夫にあふれる取組が多岐にわたって実施されています。交通にとどまらない、山間集落の持続可能な暮らしの仕組みとして、「地域経営エコシステム」の構築を戦略的に進めている点が高く評価できることから、JCOMMマネジメント賞に選定されました。  

プロジェクト賞

近江鉄道線全線無料デイと沿線地域によるイベントとの連携プロジェクトの実施と効果検証

近江鉄道株式会社/中央復建コンサルタンツ株式会社富山大学都市デザイン学部地域交通研究室びわこ学院大学教育福祉学部近江鉄道線沿線まちづくり団体一同 

 

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受賞概要
a) 背景・目的
 全国的なモータリゼーションの進展に伴い、近江鉄道線の沿線地域でもマイカーに依存するライフスタイルが定着し、沿線住民が移動手段として近江鉄道線を選ばなくなり、鉄道事業は継続的な赤字経営と厳しい状況にある。 このような背景を踏まえ、負のスパイラルを裁ち切り、正のスパイラルへ転換するために、また沿線地域でイベント等を行う各種団体の想いに応えるべく、地域住民はじめ来訪者が沿線地域を回遊しやすくすることを目的に、近江鉄道線全線を無料とする「全線無料デイ」を開催した。

b) プロジェクトの内容
 初電~終電の全便が無料で乗車できるもので、子どもは近江鉄道バス・湖国バス、八幡山ロープウェイ、オーミマリンにおいても無料で乗車できるものとした。 合わせて、近江鉄道線の沿線地域に散在する、独自に地域を盛り上げる活動や地域公共交通の利用を推進する活動等を実施している団体が同日にイベントを開催し、一体となることで相乗効果と連携強化を狙った。 また、これらイベントへの来訪者にアンケートを行ったほか、移動データの解析を行いその効果を検証した。

c) 効果検証と結果
 全線無料デイによる利用者数は、当初約10,000人と想定していたが、その約4倍となる約38,000人の利用が見られ、臨時電車も20本運行したが乗り切れないという状況にあった。 参加者へのアンケート調査結果を見ると、沿線地域住民の利用が多く、鉄道の新たな利用創出が見られた。また、人流データより駅周辺での歩行人数の増加や過去のイベントと比べて大幅に参加者数が増加したこと等から、地域のにぎわいを創出することができた。

d) 結論
 地域と一体となって実施できたことにより一定の効果を得られたことから、沿線地域からも今後も継続的に取組むことが期待されている。 今回の結果を踏まえ、PDCAサイクルに基づくスパイラルアップを図り、第2回連携プロジェクトを本年10月14日に実施の予定である。

JCOMM実行委員会から
 運賃の無料化を沿線地域のイベントと連携したプロジェクトへ戦略的にまとめ上げることで、マイカーに依存する地方部のライフスタイルへ大きなインパクトを与えた点が高く評価できます。またイベント後の調査からは鉄道の利用機会増加が見込まれており、今後の交通問題緩和への貢献が期待できます。以上のことから、JCOMMプロジェクト賞に選定されました。  

プロジェクト賞

松江市交通局利用促進プロジェクト

松江市交通局

 

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受賞概要
a) 背景と目的
 本局はこれまで、市民・企業・市・交通事業者等で構成する「松江市公共交通利用促進市民会議」が共創・協働により実施する「松江市一斉ノーマイカーウィーク」等のMMに参画し、ヘビーユーザーの獲得等を行ってきた。 そうした活動の定着もあり、輸送人員も微増傾向が続いていたが、新型コロナの影響で激減。MMも中断せざるを得ない状況となった。コロナ禍3年目となった令和4年度、「今動かないで、いつ動く?」と本局はMMの原点に立ち返り、乗合バスの厳しい現状を伝えたうえで、バスの魅力発信と利用促進の働きかけを行っていくこととし、他の交通事業者や地域社会との共創によるMMを重点的に実施した。

b) プロジェクトの内容
・乗務員等からの意見取集
・局長による訪問活動(企業・団体、行政、公民館)
・高齢者をターゲットにバス乗り方教室の集中開催
・3年ぶりのイベント、バスに乗ってみたくなる企画(バスまつり、「休日の親子連れ」「大半が市外出身者の島根大学新入生」等に着目)等による公共交通イメージアップ
・SNSを使った情報発信、既存広報物の工夫

c) 効果
 今回のプロジェクトでは、本局だけで実施してもスケール感に欠けると考え、他のバス・鉄道事業者にも声掛けを行い、相談しながら実施したため「街の取り組み」としての統一感が生まれ、その甲斐もあって予想以上の成果を得ることができた

d) 結論
 人口減少・少子高齢化社会、アフターコロナにおいて、担い手が不足する「地域モビリティ」を確保するためには、地域社会との共創はもとより、交通事業者の関係性も「競合」から「共創」に変容していかなければならず、今回の取り組みはその好事例になるものと考える。今後も、より多くの関係者を巻き込みながら、持続可能な活動にしていきたい。

JCOMM実行委員会から
 交通局職員が一丸となり、また他の交通事業者とも一体となって、公共交通の利用促進に向けた多様な事業に取り組んできた姿勢は高く評価できます。特に、プロスポーツチームや大学との共創など地域社会と連携した取り組みは、他の地域の手本となることが期待できます。以上のことから、JCOMMプロジェクト賞に選定されました。  

デザイン賞

地球を救うスーパーヒーロー生き物図鑑

狩谷恵子(株式会社エクスナレッジ)/さいとうあずみ/若井夏澄

 

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受賞概要
■ヒト以外の生き物を視座に置く「蟲瞰」で提案するこれからの社会
交通に関わる行動変容をはじめ、より広義の持続可能性の達成のためには、幅広い分野での行動変容を効果的に進めていく必要がある。そこで本書では、モビリティ・マネジメントを含む交通、化学、医療、ものづくり等を専門とするバイオミメティックス(生物模倣学)の研究者を著者に迎え、持続可能な社会を実現するお手本として、自然界の生き物たち(蟲)の知恵やそこから生まれた技術を紹介。将来を担う子ども達の行動変容を引き出す「易しさ・楽しさ」と「科学的に高い水準」を同時に満たすことを試みた。

■絵本のようなイラスト・誌面デザインで子ども達の感性を刺激
イラストレーターのさいとうあずみ氏は、著者から提示される専門性の高い資料を熟読玩味し、生き物の形態など「生き物図鑑」としても機能する最低限の正確性を担保したうえで、読者の視覚によりドラマチックに訴えかけるイラストレーションへと昇華させている。 また、エディトリアルデザイナーの若井夏澄氏は、イラストがより魅力的に見える配置や、「文字もの」に苦手意識をもつ子どもでも抵抗を感じにくい文字サイズや行間によって、子どもたちが飽きることなく読み進められる誌面デザインを実現。

■読者が「実施者」として活躍するきっかけを創出
モビリティ・マネジメントなどの行動変容の試みは、「実施者」が「参加者」に働きかける形式をとることが多い。一方、本書では実用化済みの技術の紹介にとどまらず、将来のモビリティ・マネジメントに応用しうる生き物の生態を豊富なイラストによって解説することで、読者の能動的なひらめきを導くことを重視。将来を担う子どもたちが、従来型の考え方を脱却し、新しいモビリティ・マネジメントについて考えるきっかけを与えている。 環境学習施設などでは、小学生を対象に本書で紹介した生き物をお手本とした未来のモビリティを考えるイベントを実施するなど、行動変容促進のための基礎教育に活用されている。

JCOMM実行委員会から
 将来を担う子どもたちの感性を刺激し考えるきっかけを与えることで、交通行動にとどまらない幅広い分野における社会の持続可能性を向上させることを意図した、完成度の高い書籍である点が高く評価できます。また行動変容促進策の参考となるものであり、モビリティ・マネジメント手法の深化への寄与も期待できます。以上のことから、JCOMMデザイン賞に選定されました。 

デザイン賞

沖縄の路線バス おでかけガイドブック

室井昌也(韓国プロ野球の伝え手)/谷田貝哲(バスマップ沖縄)

 

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受賞概要
沖縄県はクルマ依存社会である。観光客の移動手段はレンタカーが主で、県民も一家に3台、4台の自家用車を保有する例が珍しくない。と言って、県内の公共交通(≒バス)が特に不便というわけではない。本取り組みでは、「『本当は便利なのに、その情報が伝わらず、移動手段として選択されない』バスの利用情報をわかりやすく提供し、バス利用のハードルを下げる」ことを目的として、路線バスのガイド本「沖縄の路線バス おでかけガイドブック」(2022年12月初版発行、論創社刊)を出版した。

本書には、「行きたい場所までのバスを調べる」「目の前のバスの行き先を調べる」といったバス情報検索や、地域別・系統別バス路線図、コラム等、バスを利用するために不可欠な情報を盛り込んだ。本文中のQRコードからバス案内サイト「バスマップ沖縄」にリンクすることで、発行後のバスのダイヤ改訂にも対応している。 路線バスの利用案内に特化し、分厚く(168ページ)、安くもない(税込1,760円)にもかかわらず本書の反響は大きく、特に沖縄県では2022年に出版された本のうち「沖縄県内の書店員が今いちばん読んでほしい本」として「第9回沖縄書店大賞」に選出された。同賞の受賞は、クルマ社会の沖縄県に本書が与えたインパクトの大きさを物語っている。

本取り組みでは、公共交通の利用促進手段として「商業ベースでの書籍の出版」という手法が成立したこと、バス情報に対する注目の高さや、バス情報を得るためには一定の対価を支払っても良いと考える人が予想外に少なくない(沖縄県内の書店では当初、入荷はしたものの「こんな本売れるのか?」といった声もあったという)ことが示された。本書自体に、モビリティ・マネジメントツールとしての有用性があったとも言える。 バスのわかりにくさの解決策として、今回取り組んだ「バス情報を正面から扱ったガイド本の出版」という手法が参考になれば幸いである。

JCOMM実行委員会から
 観光客と地元住民の双方に対して路線バスの便利さを啓発することを目的に、バス利用に関する情報を商業ベースで出版する書籍として取りまとめており、従来のバスマップの概念を大きく変えるものである点が高く評価できます。また社会的に支持を集めていることから、MMツールとしての有用性にも期待できます。以上のことから、JCOMMデザイン賞に選定されました。  

 


お問い合わせ先(お問合せの際は、問合せフォームもしくはメールからお願いいたします)
一般社団法人日本モビリティ・マネジメント会議 事務局
〒615-8540 京都市西京区京都大学桂
(京都大学都市社会工学専攻藤井研究室内)

Tel: 075-383-7493

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