平成29年度JCOMM四賞の各受賞者

JCOMM実行委員会では、平成29年4月中旬までに、ご応募・ご推薦を頂いた取り組み・研究の中から、
平成29年度JCOMM賞の各賞受賞者を選定いたしました。受賞者の方には、第十二回JCOMMにて、表彰を行います。


題目 エコ通勤90%増を達成!豊橋市役所職員を対象とした10年間のモビリティ・マネジメント
受賞者

豊橋市

受賞概要

愛知県豊橋市は、地方中規模都市の例にもれず自動車を中心とした生活が浸透した都市で、平成18年度から、転入者・学校・事業所を対象とした各種のモビリティ・マネジメント(MM)に取り組んでいます。事業所MMについては、市内の事業所MMを牽引するため、まず豊橋市役所職員を対象に取り組みました。平成18年度当時のエコ通勤率は、わずか17.9%、駅から約1kmの市街地にある本庁舎でも37.1%でした。

その取り組みは、平成19年度に都市計画課により、講演会の開催や動機づけ冊子・コミュニケーションアンケートの配布から始まりました。取り組みに参加した職員の交通意識の変化がみられたものの、この段階で行動変容に至ったのは1.3%程度にとどまりました。次に、平成22年度からは人事課・行政課と連携し、エコ通勤運動を展開しました。

 1) 各課にエコ通勤管理者を設置して各課でエコ通勤を奨励

 2) 職員の拠出金を原資とした各種補助制度を創設(エコ通勤報奨制度、自転車購入費補助、P&R駐車場使用料補助)

 3) 通勤手当の見直し(2~8kmの通勤者に対して、自動車通勤者の手当引き下げ、自転車通勤者の手当引き上げ)

平成22年度には604人が各種補助制度を活用するなど、一定の成果を得ました。その後も効果を定着させるため、運動を継続しました。また、平成24年度からは、新設した都市交通課により、さらなる事業展開を図るため、市役所でのエコ通勤運動をモデルに、市内の通勤時間帯に渋滞が激しい地域にある事業所を対象とした事業所MMに取り組む「とよはしエコ通勤実践運動」に発展しています。

その後も啓発ツールを改善しながら、職員に対しモビリティ・ウィーク期間中に積極的にエコ通勤に取り組むことを促すとともに、市長が新規採用職員に対しエコ通勤実施を呼びかけるなどの取り組みを継続して行いました。

平成27年度には通勤手当も再度改定し、自転車通勤者の手当を引き上げるとともに、エコ通勤対象距離を拡大(8km→15km)しました。

平成28年度には、市役所全体でのエコ通勤率は33.9%と1.9倍に増加し、公共交通などの利便性が高い本庁舎では63.7%となりました。本庁舎では、エコ通勤が少数派だった状態から多数派になり、態度・行動の変化が定着したと考えています。

JCOMM実行委員会から

10年間の『1)ささやかな取り組みからの地道で継続的な施策展開、2)徐々に関係者を拡大していった推進体制の構築、3)エコ通勤者の大幅な増加とそれに伴う環境負荷低減等の社会的効果の貢献』が、一連の持続的なマネジメントとして高く評価され、JCOMMマネジメント賞として選定されました。


題目 NPO法人再生塾による10年間にわたる総合的な交通政策の実現を担う人材育成と支援の取り組み
受賞者

NPO法人持続可能なまちと交通をめざす再生塾

受賞概要

“持続可能なまちと交通をめざす再生塾”は、我が国における公共交通を取り巻く環境が世界の潮流から取り残されつつある現状を危惧し、故北村隆一先生の提唱で2007年に活動を開始して10年間が経過した。この間の取り組みの特徴は次のとおりである。

①10年間にわたる取り組みの継続で実質500名を超える塾生を輩出NPO法人再生塾の主たる活動は「基礎編セミナー」「地方議員対象セミナー」「技術セミナー」「アドバンスドコース」で構成される人材研修セミナーの開催である。これまでに延べ862名(実質500名、平成28年12月現在)の塾生が参加した。

②交通分野の実務者教育に極めて有効なプログラムを提供特に、アドバンスドコースは、実際のフィールドを対象として現地の交通政策課題を設定してその解決に向けた取り組みを行うものであり、少人数のグループを編成して塾生とLF(ラーニングファシリテータ)が一緒になって、問題発見、課題設定、解決策の検討、提案を行うという実践的な研修である。チーム学習によって、ビジョンの共有、互学互習、そしてLFの支援で総合的で実戦的な研修が可能となっている。このため、塾生の満足度も極めて高く、特に、グループワークワークの方法、問題発見力、課題解決のプロセスなどの受講を通じて身につけたスキルは非常に高く評価されている。

③各方面への大きな波及効果高いリピート率で学びを継続する塾生や研修後も交流に参加する塾生も多いこと、アドバンスドコースでの施策提案が事業化された事例があること、フィールドの中から実践編の取り組みが始まったこと、関連団体との連携の増加など、多方面にわたって再生塾の取り組みの波及がみられている。再生塾の目的は、より望ましい持続可能なまちと交通の実現であり、これからも歩み続ける所存である。

JCOMM実行委員会から

10年間にわたる関係者の継続的な取り組みの努力の成果であり、多くの参加者に満足度の高い講習を実施するなど交通問題の解決に資する人材の育成に貢献していることと、さらに、他の地域における展開が始まるなど、応用可能性も高いことが評価され、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。


題目 産官学民の連携・協働による、地域にふさわしい、住民目線で身の丈にあった持続可能なおでかけ交通「ぐるっと生瀬」の運行とまちづくり
受賞者

「ぐるっと生瀬」運行協議会

猪井博登(大阪大学大学院工学研究科)

山室良徳(中央復建コンサルタンツ株式会社)

阪急タクシー株式会社

西宮市

国土交通省神戸運輸監理部兵庫陸運部

国土交通省近畿運輸局

受賞概要

兵庫県西宮市の生瀬地域は、市域北東部の山間部に位置し、古くからの集落を囲むように山を切り開いて造成された新興住宅地が複数点在している。これらの地域は、急勾配でかつ狭隘な道路が多く、移動は専ら自家用車に依存するというライフスタイルとなっていた。また、川を挟んだ各地区のコミュニティや交通事情等が異なっていた。さらに、昨今の少子高齢化の進展による高齢者の増加や人口減少などに起因した地域課題、特に移動面での課題が顕在化していた。

このような状況のもと、地域の将来に危機感を持った一部の住民が、平成21年に実施したボランティア輸送がきっかけとなり、産官学民との協働のもとコミュニティ交通の運行に向けた地元協議会を立ち上げた。協議会では、アンケート調査や試験運行、地域での座談会を繰り返しながら、最終的には、9自治会と老人クラブ、社会福祉協議会による取り組みに発展した。そして、「①高齢者をはじめ、誰もが気軽に利用できる移動手段の確保」、「②新たなコミュニティの醸成や地域の活性化」を目的として、地域が主体となり、持続可能な地域公共交通として平成27年10月からコミュニティ交通「ぐるっと生瀬」の本格運行へと結びついた。

運行開始後も、広告付き会報の定期発行やSNSを活用したPR、自治会ごとの座談会、マスコットキャラクター作製、保育所・幼稚園・小中学校でのMM、地域の各種イベントでのPRや支援、空家対策など精力的に取り組んでいる。

このような地域の取り組みにより、コミバスの周知が図られ運行初年度の収支比率は約90%と高く、さらに2年目以降である現在も利用者は増加し続け、その収支比率は、3年目の目標としている100%に迫る勢いである。

一方、地域に目を向けると、高齢者の運転免許返納数の増加やコミバスの運行時刻にあわせての外出など、ライフスタイルの変化がみられるようになった。さらに、地域の諸団体からは、地域を盛り上げるためのイベント等への協力依頼が増えるなど、地域に認められる存在となってきている。

今後も、地域と産官学民が一丸となり、「ひと」や「まち」をつなぐ取り組みとして、引き続き事業の推進に努めていきたい。

JCOMM実行委員会から

地域における地道な取り組みであるが、自治会・関係者が協働して継続的に取り組みを行っていること、その結果として着実な効果を上げていることが評価され、また、このような身の丈に合った取り組みを着実に行うプロジェクトを展開することが他地域でも期待できることから、JCOMMプロジェクト賞として選定されました。


題目 仙台市地下鉄東西線各駅周辺散策マップ
受賞者

仙台市青葉区役所まちづくり推進課

仙台市若林区役所まちづくり推進課

仙台市青葉山まちづくり推進協議会

地域のお宝探検隊

片平散策マップ作成委員会

仙台市八木山市民センター

受賞概要

2015年12月6日に仙台市地下鉄東西線が開業した。この地下鉄新線は同市西部の八木山動物公園から中心部・仙台駅を経て同市東南部の荒井まで、路線延長13.8km、13駅の福岡市七隈線と同じタイプの鉄道である。需要予測で開業時利用者約8万人/日を見込み、主な利用者は徒歩圏域で多く見込まれている。しかし、地下鉄駅は出入口のみでしか駅を認識できないことから、徒歩による利用者増進・外出率向上に新線の開業前から取り組む必要があった。

そのような課題に有効なMMツールとして、駅周辺マップは重要である。紙による媒体が基本なので限界もあるが、インターネットによる閲覧も可能で、マップがあることを知りマップを使って散策体験のある人達からの口コミなど、人やITを介しての地下鉄駅の存在や駅周辺の魅力を認知する方法として高い貢献度が期待できるからである。さらにマップは、掲載情報の更新など、持続性・継続性が求められると同時に、駅周辺のまちづくりに発展することも期待される。

東西線各駅周辺マップは、2014年若林区役所が東北工業大学の協力を得て6駅のマップ作成したことに始まり、現在では仙台駅(巨大交通結節点のため乗り継ぎガイドを仙台市が作成)を除き12駅で作成済みである。デザインは、A3判横四折サイズで揃えながらも、作成主体が行政から地域団体まで様々な関係で、洗練された統一感のあるものから古絵図・物語風の個性的なものまで、多様なマップ群が出来上がった。最近では、川内駅に隣接する東北大学が川内駅・国際センター駅周辺マップを更新し同大学のHPに掲載している。また、青葉山駅周辺マップを作成した地域団体を中心に、フットパスづくりの活動でまちづくりへと歩み始めており、仙台市内外で注目されている。なお、東西線の乗車人員は、需要予測値には未達成だが、着実に増加している。

(参考:地下鉄東西線各駅周辺マップは現在仙台市交通局HPにて掲載中。マップ掲載の交通局HPのURL→ http://www.kotsu.city.sendai.jp/subway/news/machimeguri.html)

JCOMM実行委員会から 個々のデザインに地域性を加味しながら、利用者として使いやすいように情報が厳選されたマップになっており、意匠性、機能性の高いできあがりになっています。特に、区民主導によるまちあるき、マップ構成、デザインなどマップの作成プロセスが巧みにデザインされており、実務的活用可能性に特徴があることから、JCOMMデザイン賞として選定されました。

題目 大和市における健康モビリティ・マネジメント・ツールキット「日々の足から健康習慣」
受賞者

大和市

片桐 暁

齋藤 綾

中原 慎二

筑波大学公共心理研究室

受賞概要

神奈川県大和市では、保健福祉部署である健康づくり推進課、保険年金課、都市交通に関連した街づくり総務課、職員に関連した人財課が連携し、健康づくりにフォーカスしたモビリティ・マネジメントを2014年度~2017年度にかけて推進している。プロジェクト名は「日々の足から健康習慣」であり、(1)大和市職員(職員MM)と(2)国民健康保険の特定保健指導教室参加者(国保MM)を対象としている。

このプロジェクトで開発したMMツールキットは、大和市のテーマカラーである若みどりを基調とし、健康にフォーカスした様々な情報をテキストやデザインを吟味して作成した動機付け冊子、行動プラン票や体重・歩数記録用紙などで構成されている。全てに「徒歩の増進」をイメージした「スニーカー」のロゴマークをつけ、ブランド化を図った。また、健康にフォーカスした様々な情報・ツール(大和市まちあるき冊子、身体活動量計、夜間歩行用リフレクタ等)を、レイアウトや意匠で読みやすく、使いやすく、美しいデザインに整えることを志すとともに、全ての文章をコピーライターが監修し、文言の言い回しや改行位置にまで気を配った完成度の高さが特徴である。これらのツールキットは他都市にも容易に応用できるものと考えられる。これらのツールキットを2015年秋に対象者へ配付し、交通行動変容ならびに健康指標の改善を要請した結果、職員MMではクルマ通勤者の約2割が通勤手段を変更する効果が得られた他、国保MMではBMIや体重、最低血圧、中性脂肪が減少する効果が得られた。効果分析は現在も継続しており、2017年度に終了予定である。

JCOMM実行委員会から

健康づくりを目的にしたMMのキットで、テーマにあった配色やイラストなど意匠的にもよく練られており、ツールの統一感が醸成されています。また、記録シートの工夫など機能的にも高く評価されました。これから多くの地域で展開が期待される健康MMにおいて、このツールキットは一つの模範的なデザインを提供しており、実務的活用可能性が極めて高く、JCOMMデザイン賞として選定されました。


題目 モビリティ・マネジメントにおける動機付け情報の態度変容効果の実証分析
受賞者

藤本 宣(清水建設株式会社)

谷口 綾子(筑波大学システム情報系)

谷口 守(筑波大学システム情報系)

藤井 聡(京都大学大学院工学研究科)

受賞概要

本研究業績は、以下の二編の論文から構成されている。一つは、我が国のモビリティ・マネジメント施策で広く使われてきた、環境・健康・コスト・交通事故等の観点でクルマのデメリットを伝える動機付け情報のうち、どれが、どのような人々に最も態度変容効果をもたらすかを定量的に調査分析したものである。調査は、首都圏在住の週三日以上クルマを使う成人520名を対象としWEBアンケート形式で行った。その結果、義務的・用務的にクルマを使っている人は心が動きやすいこと、さらに、心が動きやすい人ほど環境意識・ソーシャルキャピタル・主観的幸福感が高く、BMIが低いということが統計的に示された。また、小さな子供がいる人には「子供の成長」、中高年には「健康」に関する動機付け情報を与える等、個人に合った動機付け情報を提供することで、より効果的・効率的なMMを行える可能性が示唆された。この分析の中で、「クルマは肥満につながる」と健康面の悪影響を伝える動機付け情報は、BMI(肥満度を示す簡易指標)が高い人には効果がうすい、という結果が示された。つまり、太っている人に「クルマは肥るから控えた方がいい」と言うのはむしろ逆効果となる可能性が示されたのである。筆者らは「それならば、公共交通は痩せる、という情報提供ならば太っている人の心を動かすかもしれない」と考え、情報提示のフレーム(枠組み)の差で、態度変容効果が異なる可能性について検証するという着想を得た。そして二つ目の論文で、MM動機付け情報におけるフレーミング効果の存在を検証した。具体的には、コストと事故の動機付け情報はクルマネガティブフレームの方が、健康と中心市街地に関する動機付け情報は公共交通ポジティブフレームの方が、クルマ抑制行動意図が高いことが示された。これらの結果は、今後のMM施策に直接的に活用できるものであり、MMによる行動変容効果を高めることが期待される。

JCOMM実行委員会から 本研究は、モビリティ・マネジメントに効果的な動機づけ情報について明らかにし、その結果を踏まえて動機づけ情報のフレーミング効果について明らかにした一連の研究で、モビリティ・マネジメントの実務において動機づけ情報の設計に非常に有益であり、その有用性が高く評価されました。また、明確な研究目的と適切な分析フレームから完成度及び信頼性も高いことから、JCOMM技術賞として選定されました。